【バレンタイン編】
バレンタインの昼休み、学校内ではあちらこちらでチョコレートが行き交っていて。
中にはもちろん、女の子達の心がこもった手作りチョコレートもある。前日に調理部で開催された講習会は、新入生勧誘の時よりずっと盛況だった。
けれど、数ある手作りの中で最も見事な出来をしているのは、二人の少年の間に挟まれたホールのザッハトルテだろう。
「これ、全部食っていいの?」
「もちろん。だって源二郎に食べてもらうために作ったんだからね」
チョコレートの、美しいマットな艶は中身の美味しさをも保証しているかのよう。源二郎は思わず唾を飲み込んだ。
その間に行平は、水筒の蓋に紅茶を注いで源二郎に差し出す。
「あーっ美味そう! 柳葉、俺にもそれ、食わせてくれよ」
通りすがりの男子が頼み込んできたが、行平は首を横に振る。
「駄目。これは源二郎にアドバイスをしてもらうために作ったんだから」
「柳葉のけち! いいよなぁ海原は。美食家の舌のお陰でこいつの料理が食えるんだから」
改良したらみんなに作って持ってくるよ、と行平は彼に請け負ったが、彼が立ち去ってしまうと「――なぁんてね」と悪戯っぽい笑みを源二郎に向けた。
「バレンタインのチョコレートは、好きな人のためだけのものだよ」
行平に小声で囁かれて顔を真っ赤にした源二郎は、「ジャムが多すぎる!」と適当な事を言って誤魔化した。
(2007/02/14)
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