【ホワイトデー編】
「源二郎、今日何の日か知ってるよね?」
ランチタイムが終わって源二郎が食後のお茶をすすっている時、行平が尋ねてきた。
「ホワイトデーだろ? たいていの男子にゃ関係ないだろうけどさ」
源二郎はそう答えた後で、自分自身は関係が大有りな事に気が付いた。バレンタインの日、行平はそれは見事なザッハトルテを持参して源二郎に食べさせたのだ。相変わらずの玄人はだしで美味しかった。
(その話題持ち出してきたって事は、行平は俺に何らかの見返りを求めてるんだよな?)
そういえばここ最近、デパートなどで「ホワイトデーフェア」の表記がよく目に付く。女の子ならアクセサリー等が妥当だろうが、男の行平には何が良いだろう、と源二郎は考えた。
(こいつが喜びそうなもの、って言ったらやっぱ調理器具かな? けど大抵のもんは持ってそうだしなぁ)
「どうしたの?」
「や、なんでもない」
なら良いけど、と行平は弁当箱をしまい、代わりに小さなタッパを机の上に出した。
「だからね、これ、作ったんだ」
行平がうやうやしくタッパの蓋を開けると、中には半円形の白くふわふわしたものが入っていた。
「これ、マシュマロ――?」
源二郎が一つを摘み上げると、あのふにゃりとした弾力が指から伝わってくる。
「昨日の夜作ったんだ。一説によるとホワイトデーは元々マシュマロデーだったらしいよ。勿論別の説もあるけどね」
「まさかマシュマロが一般家庭で作れるとは……それより俺、行平に何か返さなくて良いのか?」
「え?」
行平は心底、意外そうな顔で源二郎を見た。
「そっか、そっちのほうは全く考えてなかった」
行平の言い様に減二郎はいささか気分を害した。むしろ何の用意も無かった事を責めてくれたほうが良かったかもしれない。
「行平ぁ、俺、お前と付き合ってるんだよな? 何でホワイトデーに何も用意してない事、文句言わねーの?」
「ただ僕が料理作るのが好きで、源二郎に美味しいもの食べさせて喜んでもらいたいから……バレンタインもホワイトデーも両方、僕が『したい』からしてるんだよ。でも源二郎がそう考えてるなんて思わなかった」
ごめんね、と行平は源二郎の頬を撫でた。
「じゃあ、源二郎の気持ちって事で、何か買ってもらおうかな」
「やっぱ包丁とかフライパンとか?」
「そうだね、それでまた料理作って、源二郎に食べさせてあげられるもんね」
それじゃ何だか堂々巡りっぽい、と思いながらも、源二郎はとりあえず目の前のマシュマロを食べることにした。
(2007/03/14)
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