INTEGRAL INFINITY : jade pebble

【ラムネ玉の夏】

 地平線の果てまで続くかと思われた直線道路沿いに、時間が止まったような見た目の駄菓子屋があった。
「セイ! ちょっと一休みしようぜ」
 ミズに言われるまでもなく、チャリを店の前で止める。店先には年季の入ったケースがあって、缶飲料やペットボトルが浮いていた。
「あ、ラムネがある。俺これにしーよっと」
 確かにラムネなんて縁日ぐらいでしか見ないから、俺もミズに合わせてラムネを選んだ。そう言えば、ラムネとサイダーってどこが違うんだろう。味は殆ど変わらない気がするんだが。
 けれど、このガラス瓶の重さとか握り心地とか、独特な感じがつい手に取ってしまう原因なんだろう。

 俺達は、店番の婆さんにラムネ代を払うと、店の隣にあった、ペンキ剥げかけのベンチに腰を下ろした。
 瓶についていた道具でラムネ玉を瓶の中に押し込む。泡を零さないように急いで口を付けた。やや温いけど、甘い刺激が喉に気持ちいい。
 横目でミズを見ると、あいつはまだ瓶と格闘していた。
「俺が押し込んでやろうか?」
「いい。俺、ラムネ玉だけ外したいんだよ――あ、口のとこ回る」
 ミズはラムネ瓶の口のところについていた青いキャップを外すと、剥き出しになったラムネ玉を俺に見せびらかした。
「へへ、成功」
 ラムネ玉をつまみ出してから、ミズは一気に瓶の中身をあおった。凄く良い飲みっぷりだな。
「ミズ。飲み終わった瓶貸して。回収ケースのとこに入れてくる」
「サンキュ。あ、キャップは締めとかねーとな、バレるし」
 俺が受け取った瓶を回収ケースに入れて戻ると、ミズはラムネ玉をポケットティッシュに包んでいた。
「後で洗う。何かべとべとしてるし。本当は太陽に透かしたりとかしたかったけど。明日までお預けだなー」
……そんなことしたら、ラムネ玉がレンズの役割を果たしてミズの眼球が危険にさらされると思うんだが。
 明日、本当にやりそうになったら俺が止めよう。

「まさか、そのためにラムネ玉取り出そうとしてたのか?」
「何となく。ガキの頃こういうのってすげー欲しくならなかった?」
 ミズは昔、ラムネ瓶を地面でたたき割ろうとして怒られたことがある、と白状した。
「だから今日、コイツをゲットできて幸せ」
「未だにガキなんだな、お前は」
「失礼だなセイ。子供の心をいつまでも持ち続けてる、とか言い換えろよ」
「何事にも限度はある」
 俺が言うと、ミズは黙り込んでしまった――まずい、怒らせたみたいだ。
「……ラムネって夏じゃん」
「確かに、イメージとしてはそうだな」
「だから、初めてのセイと一緒の夏休みの記念になるかな、って思ったんだよ」
 え。
 まさかミズがそんな事を考えていたとは。今回は俺の読みが足りなかったようだ。
「小学生が夏の思い出、って言って色々集めるだろ、あんな感じで」
「じゃあ、これからもっと頑張らないとな」
 ミズが俺を見た。明るい表情に戻っていた。

――夏はまだまだ長い。

 

(2006/08/07)

jade pebble/目次

 ラムネとはレモネードがなまって出来た言葉だそうです。今回のネタは、PALが「キャップ外せばラムネ玉って取り出せるよ」と教えてくれて思いつきました。