【酒谷サマと(自称)下僕 その1】
2007.02.25〜2007.03.14 Web拍手お礼SS
「――どうしてそんな事になるんだ!?」
酒谷は憤っていた。
彼が和地を生徒会の手伝いに駆り出すのは低い身長のデメリットを補うためだ、と言うのが惣稜の生徒達の統一見解らしい。
「でも事実だろう? だって酒谷、高いところにある資料、自分で取れないじゃないか」
南斗は笑顔で断言した。日頃馬鹿と言われ続けている彼にとっては意趣返しが出来る絶好の機会なのだ。
「そ、オレ酒谷サマの脚立だから」
「へーぇ、じゃあ本当になってもらおうか」
酒谷が彼にしては低い声で言うと、和地は「喜んで」と生徒会室の床に手と膝をついた。まさか本当にやるとは思わず酒谷は面食らったが、意地で上履きを脱ぐ。和地は身長のぶん相対的に手足も長いため、背中に上るのは思いのほか苦労した。
「酒谷ってそっちの趣味あったんだ?」
「うるさい、何でもかんでも性癖認定するな!」
「酒谷サマ、乗り心地は?」
「悪くないけどやっぱり心理的に不安がある」
「じゃ、お次は抱っこと肩車どっちが良い?」
更に憤慨した酒谷は、危うく和地の背の上で地団駄を踏むところだった。
2007.03.14〜2007.04.02 Web拍手お礼SS
「酒谷サマ。ホワイトデー何準備した?」
「……それは僕に対する挑戦と受け取って良いか?」
酒谷は眼鏡の奥から鋭い視線を燦めかせた。
「僕は本命チョコは一個も貰ってないから、関係ない。和地もそこのところ良く知ってると思うけど」
バレンタイン当日は殆どの時間を和地と一緒に過ごしたようなものだ。酒谷の下駄箱の状況まで、和地はその目で見たはずである。
「何でかね、酒谷サマ人望あるのになぁ」
「生憎、僕は恋愛対象にはならないみたいだから」
むしろ和地の方が一、二個貰っていたぐらいで、酒谷の機嫌はますます降下の一途を辿る。
「自分より身長低い相手は問題外なんじゃないの」
やけくそな気分で酒谷が机の上を片付けていると、和地が酒谷の頭頂に掌を被せた。
「そーかな、オレはミニマムで可愛いと思うけど」
「男に言われても嬉しくない!!」
「そう? 酒谷サマそこんとここだわんない人だと思ってたけど」
酒谷ははっきりと否定する事が出来ず、眉間のしわを更に深くする事しか出来なかった。
「まぁそんな酒谷サマにプレゼント」
和地は反対の手でポケットからキャンディを掴み出すと、机の上にばらまいた。
「これカルシウム入りな」
つまりいらいらしてるって思われてるんだな、と酒谷は乱暴に飴の包装を解いて口に放り込んだ。
2007.04.01 22:03
休みの日に電話がかかってきたと思ったら、和地からだった。
「もしもし? 何か用?」
『酒谷サマ……あの、オレ酒谷サマに言わなきゃなんないことあって』
和地の声は凄く沈んでいて、何かトラブルがあったんじゃないか、と僕は携帯を握る手に力を込めてしまう。
『オレ、実はレティクル座から来たんだ』
「――」
僕は無言で通話を切った。
すぐに和地からかけなおしてくる。
『ひどいなー、エイプリルフールの冗談ぐらい勘弁してよ』
「あまりに馬鹿馬鹿しいからだよ!」
『信憑性あったら逆にヤバイじゃん、人間関係崩壊したりとか』
「だからって何でそのネタなんだよ!」
『知ってんだ? 意外〜』
たまたまだ、と言ってから僕は再び通話を切った。次に和地がかけてきた時取るかどうか、それが問題だ。
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