【anotherstars - the BEST finder and the BEST subject】
駅ビルの壁面いっぱいに広がる、秀麗かつ野性味溢れた男の姿。
スクランブル交差点の向かい側から、通行人達は彼の瞳を仰ぎ見る。
信号の色が変わっても、人の流れに乗らずその場に留まり巨大広告を見つめ続ける者がいた。
「や、泰基」
肩を叩かれ緑川泰基が振り返ると、懐かしい知り合いがそこにいた。
「誰かと思えば水尾君か」
「祐人でいい、って言ってるじゃん、前々からさっ」
「それでは今この瞬間から改めることにしよう。遅ればせながら久しぶりだね祐人君」
相変わらずの台詞回しだね、と祐人は丸いフレームのサングラスを押し上げながら苦笑した。
「それで、どう? アレの出来」
祐人には泰基が何をしているのか、何のためなのか解っている。それは当然で、彼らは泰基が見つめていた広告のモデルを通じて知り合った仲なのだ。
「素晴らしいよ彬君は。撮されるたびに進化している――ボクが初めてカメラを向けた時は、それはもう酷いものだったがね」
織田彬。雑誌やCM等で活躍する人気男性モデルの彼が見いだされたきっかけは、とある写真コンクールへの応募作品だった。
「そりゃああの時の彬は撮る側のつもりだったからでしょ」
「ならば彼は自分の適正を誤解していたのだよ。尤も、彼が写真を学ぼうと思ってくれなければボクと彬君が出会うことは無かったんだがね」
初めて彬を見た時、泰基は直感したのだ――彼は撮されるための存在なのだ、と。
彬の幼馴染みと言う関係で泰基と親しくなった祐人は、そのことを幾度と無く聞かされている。
泰基の勘が正しかったことは、今や誰の目にも明らかだろう。
「それで、広告のほうはどう?」
「まだまだだね。彬君の魅力の本質はあんなものじゃあない」
「随分とはっきり言い切るね?」
「当然だよ、最高の被写体である彬君を最も良く撮せるのはこのボクしかいないからね」
先に階段を駆け上がってしまった彬に比べ、泰基は未だ駆け出しのカメラマンでしかないけれど。
「祐人君も期待していてくれたまえよ、いつかボクが撮った最高の彬君であの壁を飾ってみせるから」
(2006/07/29)
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