INTEGRAL INFINITY : extrastars

【eternity】

「……育っちまった双子って、何処まで同じもん着けても許されんのかなぁ」
「突然どうしたの」
 何となく呟いた言葉だけど、南斗は聞き逃さなかった。っつか起きてたのか、こいつ。
 ひょっとして南斗も俺が寝てるって思ってたのかもしんねぇ。俺が独り言言ってから指が変なとこ探り始めたから、背中側から回された腕を思い切り抓ってやった。
 ほっとくと南斗はすぐに調子に乗るからな。駄犬になんねぇようにちゃんと躾けとかねぇと。
「小学校低学年ぐらいまでは意図的にお揃い着せられてたよな」
「そうそう。ベタすぎるイニシャル入りセーターもあったよね、母さんの手編みの」
「今思い出すとめちゃくちゃ恥ずいよなぁ」
 高学年になってからは同じ服を共用する事が多かった気がする。もっとも、中学に上がって俺と南斗の差がついてからは、服の趣味とか違ってきたけど。未だ髪を染めてなかった俺は南斗と間違われるのが嫌で、わざと南斗の趣味からハズしてたのがきっかけだったと思う。
「……あの頃は幸せだったなぁ、だって北斗の着たものを俺が堂々と着れたんだから」
「なっ! 何気色悪ぃこと言ってんだ南斗!」
 カラダ込みの関係になって以来、南斗は時々とんでもねぇことを口走る。正直人格疑われるぞ。
「まぁ手は幾らでもあったけど」
「まさかお前」
「何のことかな?」
 とぼけられた事で逆に確信しちまった――他にも問いただしてぇ事って沢山あんだけど、怖くて実行できねぇままだ。
 南斗が夢を壊さないキャラなのは良いことだ、って思ったことあったけどさぁ、作った仮面の裏はこんな変態なのかよ、っつぅのはどうかと思う。

「で、どうして急にそんなこと思った?」
「今日さぁ、去年クラスが一緒だった久保田と久々に話したんだよ」
 久保田は物凄いニヤけ面でとうとうカノジョが出来た、って言った。あいつの右手の薬指には指輪が嵌ってて、カノジョとお揃いだなんて散々自慢された。
「それ見て、普通のカップルってそう言うこと出来んだなぁ、ってしみじみと」
 俺らの関係は薬指のペアリングで主張出来るものじゃ絶対になくて、だったら代わりに何なら良いのか、って思って、あの呟きになった。
「けどやっぱ、この歳で兄弟ペアルックなんてサムいわ」
 同じもん着て許されんのは制服ぐらいで、それにしたって俺と南斗じゃ着方が全然違ぇんだよな。
「北斗……」
「それに男と女だと入籍とか、ゴールっつうか区切りみたいなのあるじゃん」
 男兄弟の俺らには縁のない話だ。別に、この歳で結婚願望とかあるわけじゃねぇけど。
 二人の間に確かな約束がある、ってのは羨ましかった。
「あー、けど何もする必要無ぇから、楽っちゃ楽だけどな」
 わざと明るく言ってみたけど、南斗は何も言わずに抱きしめ直してきた。
 俺らにあんのはお互いの存在だけで、南斗が必要以上に俺にひっつきたがんのも、いつもどっかで俺と同じ事感じてるからなのかもな。
 そう考えたら何か堪んなくなって、また動き出した南斗の手を、もう拒むなんて出来なかった。

――あと一分で六月十三日か。
 とは言っても出生時間になるまでホントの誕生日って言えねぇんだけどな。あれ、こんな捻くれた事俺に吹き込んだのは誰だっけ? 菱井じゃねぇのは確かで……緑川あたりだったかな。
 この考え方だと俺と南斗の誕生日のレンジは違うって事になるのな。たまたま俺のが先に産まれたけど、もし逆だったらあいつのが「北斗」になってたのかな。そう考えると変な気分だ。
 まぁ、産まれた順は関係なくて、成長したらやっぱ俺は俺であいつはあいつにしかならないだろうな、って思ってたら部屋のドアをノックされた。
「なに、南斗」
「入るよ?」
 南斗が入ってくるまでの間に秒針は12を通り過ぎて、日付が変わった。
「あー、なった、な」
「誕生日おめでとう」
「……双子同士で言い合うのも微妙な気ぃするけどな。ま、おめでと」
 ぞんざいだなぁ、って文句垂れながら南斗は俺の左の手首を掴んだ。
「なんだよ」
「立って」
 意味わかんなかったけど、とりあえず言うこときいとく。
 南斗は俺と向かい合わせに立つと、掴んでた手首を持ち上げた。
 左の人差し指を冷たい感触が滑る。
「……これ何」
「プレゼント。サイズ同じだとこういう時楽だよね」
 俺の指に嵌ってんのはどう見てもシルバー製のリングだ。
「婚約指輪って昔は薬指じゃなくて人差し指だったらしいよ。ここだったらあんまり他人に詮索されないだろうから、いいよね」
「お前、何で」
「まぁ自己満足なんだけどね。北斗のこれからの時間、俺が全部貰うから――俺からは絶対手を放さないことぐらいしか出来ないから」
 あの時逃げようとした自分を捕まえてくれた事に報いる唯一の手段だって言われて、俺は不覚にも涙が出ちまいそうになった。
「だったら、俺がお前に首輪でも着けるのがスジじゃん。こんな、安くなさそうなの。俺のがバイトして金あんのに」
 俺何も用意してねぇよ。一方的なのってフェアじゃねぇよ。
 俺だって――南斗に何かさせてくれよ。
「じゃあ、今日一日だけでいいから学校での北斗も俺に頂戴。校門で別れるんじゃなくて、お前の教室の前まで一緒に行って、昼も何処かで一緒に食べて。それで放課後、一緒に何処かに遊びに行こう」
 気になるならその時何か買って、って南斗は俺の指に口づけながら言った。
 こいつまでリングってのはヤバイし、普段学校で作ってるキャラに合ったやつじゃねぇとまずいよな。

 俺がプレゼント何にしようか、黙って考えてんのを南斗は勘違いしたらしい。
「たった一日だし、何訊かれても『誕生日だから』で押し通せば誤魔化されてくれるよ、多分」
「多分、って言われると何か不安だな。必要以上にいちゃつくのは禁止だからな」
「それぐらい解ってるよ。普段だって人前ではやらないじゃないか」
 にやけてる南斗を見ると今日はこいつ絶対気が弛むな、って気がして、学校行って家帰るまでは俺がしっかりしなくちゃな、なんて思った。

 

(2006/06/13)

番外編/polestarsシリーズ/目次

 タイトルは語句の意味で選んだので、エタニティと言えば女はまずダイヤぐるりのエタニティリングを思い浮かべるでしょうが、流石に作中のリングは違いますよー、とここに書こうと思ったのですが――実在するんですね男物シルバーのエタニティ。流石にフルエタではありませんでしたが。やっぱそれなりに高価でしたし。