【goodby, my school】
最近日が高くなってきたって思うけど、流石にこの時間になると薄暗くなってきている。けど窓から見る分には、校内にはまだ生徒が残ってる感じだった。俺も人の事は言えねぇけど、みんな今日が最後だから名残惜しいんだろう。
「っつか、三年間なんてあっと言う間だったな」
「――本当にね」
「南斗」
気がつけばいつの間に、南斗が隣に立っていた。
「お前、気配消すの上手すぎ」
俺が言うと南斗はまた作り笑顔で誤魔化した。ったく、これで何度煮え湯を飲まされてきたかわかんねぇ。
「北斗。俺、ちゃんとネクタイ死守してきたよ?」
南斗はどこか得意そうな顔で言った。まぁこいつはもてるから、その一つ一つを断んのに凄ぇ時間かかっただろう。去年の小野寺先輩ん時も相当だったけどな。うちの学校、第二ボタンの代わりに制服のネクタイ渡す事になってんだけど、多分南斗の以上に競争率激しかっただろう小野寺先輩のネクタイは、菱井が一年間使ってたなんてみんな知らねぇだろう。
実は――俺も何人かからネクタイ欲しいって頼まれたんだけど、その事は南斗に黙っとく事にした。下手にへそ曲げられるとえらい目に遭わされるからな。
「ほら、北斗。ネクタイ交換しよう?」
「あんま意味ねぇと思うんだけどなぁ。普段間違える時もあったじゃねぇか。それに明日からは制服着ねぇんだし」
解ってないね北斗は、と南斗がむくれる。こいつ何気にイベント好きだから、これも外せねぇんだろう――卒業式、だったしな。
「わかったよ」
俺は自分のネクタイを解こうとしたけど、南斗に止められた。
「せっかくだから俺に解かせてよ。北斗は後で俺のをやって」
南斗に言われたとおり、俺らは互いのネクタイを外し、そして首に結んだ。まぁ同じもんなんだから、見た目はちっとも変わんねぇ。
「卒業おめでとう、北斗」
「お前もな、南斗」
そんな言葉も交換すると、あぁ卒業しちまうんだな、って実感が改めて襲ってきた。
凄ぇ、寂しい。
良い事も悪ぃ事も、ほんと色々あって、その殆どが惣稜高校で起きた出来事だった。そのきっかけがあったのは、この地学準備室だ。
「ここが始まりだったね」
南斗も俺と同じ事を考えていたらしい。しんみりと呟いた。
「そうだな」
天文部に入部しようとした俺が、ここで幸崎先生と話してる南斗を見た時――あの瞬間から、俺らの関係は変わったんだ。
「ねぇ、北斗」
南斗がその続きを言わなくても、俺にはこいつのしたい事が解っていた。大人しく引き寄せられてやる。
キスしてる間に、俺の腰を抱く南斗の腕の力が強くなってくんのを感じた。身体が密着してるとこから熱くなっていく。
唇を離すと南斗は俺の耳元で、擦れた声で名前を呼んだ。
「お前……流石にやべぇだろ」
「入ってくる時に鍵は掛けたし、打ち上げの待ち合わせに間に合えば酒谷も怒らないよ。と言うより、あいつは薄々予想してたみたいだった」
「マジかよ」
俺ら、っつか南斗はつくづくそんな風に見られんだな……。
「もう、ここから集中しない?」
そう言いながら南斗は、せっかく締めたばかりのネクタイを外しにかかった。
手を繋ごう、と南斗が言った。
「出来るかよ。まだ校内に他の連中いるかもしれねぇんだぞ」
「構わないよ。俺達にとっては最後の登校日なんだから」
南斗は俺の手を強引に取り指を絡めてきて、結局俺らはそのまま校舎を出た。俺が心配してたより人は全然いなくて助かったけど。
校門前まできたとき、俺らはどちらからともなく立ち止まって後ろを振り返った。
俺と南斗の声が重なる。
さよなら、俺らの学校。
この街を出て大学行っても、その先どんなに時間が経っても、俺も南斗もここでの日々を絶対に忘れねぇだろう。
「行こうぜ、南斗」
「うん」
俺らはまた揃って向きを変え、並んで前へと歩き出した。
(2008/03/01)
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