INTEGRAL INFINITY : extrastars

【スラッシュノート編】

2006.05.30 06:45

 教室に戻ってきてみたら、俺の机の上に見覚えのないノートがのっかっていた。
「……名前書いてないじゃん」
 いつも理科棟で授業やる地学組に対して、生物組はこの教室で授業をやってる。四組の誰かが忘れてったんかな。
 表紙裏とかに書いてねぇかな、ってめくってみて、なんか見覚えある文字列に気づいて思わず文章を追い――
 俺は目眩を起こした。

「北斗っ、どうしたん!?」
 俺が机に突っ伏したのを目撃したのか、すぐに菱井が寄ってきた。
「すまん菱井。プレイバックさせねぇで……」
 その手に握ってるノートが原因か、と指摘された。
「一体何が書かれてるんだ?」
「あああああ俺と南斗が生徒会室で」
 菱井は目を剥いて、声の音量落として俺の耳に囁いた。
「まさかバレたのか!?」
「それは絶対無いと思う――だったから」
「……」
「…………」
「………………そうか、逆か。そりゃ辛いな。可奈が言うには逆カップリングとやらは互いの間に大きな溝があるらしいからな」
 何だか違うような気がしたけど、菱井もよく解ってなさそうだから追求はしないことにした。

「にしても、世間では俺の方が無理矢理押し倒す方に見えんのか――そっちのがショックだ」
「無理矢理、ってそう言う内容だったんだ?」
「っつうかあんな南斗ありえねぇ。ちゃんと読んだら寧ろギャグかも」
 とは思うものの、俺には二度とこのノートを開けそうにない。
「――けど、字ぃ追うごとにこう、トラウマが」
 嫌だ、こないだ生徒会室で遭わされた目を事細かに思い出しちまう。
 菱井は俺の考えてる事を察したのか、「一度は通る路だよ」と慰めてきた。
……普通、通らねぇ。

 

2006.05.31 07:17

「このノートどうしよ……菱井、生物の時間、俺の席に誰座ってるか知らねぇ?」
「四組の子だった気がするけど、顔まではっきり憶えてねーよ。四組行ってこのノート誰のですか、っつった方が早いんじゃね?」
「そんな事して南斗に内容ばれたらどうすんだよ」
「――地獄絵図だな」
「菱井、代わりに行ってくれ。頼む」
「帰りに何かおごれよ」

 

2006.05.31 21:08

「っ、ぷぷっ……! やべー、北斗の言うとおり最高のギャグだわ、これ」
「っつか読むなよ菱井。しかも俺の目の前で」
「はいはい、ちゃんと返しに行きますよ、っと」

「すんませーん、ちょっと人捜したいんですけどー」
 俺が四組の教室に首を突っ込んだ途端、真っ先に接近してきたのはやっぱりというか天宮南斗だった。
「珍しいね、菱井君が一人でこっちに来るだなんて」
 天宮南斗は実ににこやかにこっちを睨み付けている。こいつ、未だに俺のこと警戒と嫉妬丸出しで見てやがるんだもんなぁ。いくら校内じゃ俺のが北斗と一緒にいる時間長いからってさぁ。
 この点優の方がよっぽど寛大だと思う。あー、あいつははなっから自分より上の奴なんて存在しない、って信じ切ってるからか。それはそれで嫌だなおい。
 っつーか、もう――

「ぷっ……っ、ぶははははははははは!!」

 駄目、限界。
 天宮南斗の顔見るだけで、さっき読んだノートの中身を思い出しちまう!
 こいつが、こいつが息も絶え絶えに喘いだり、「もう許して」とか言って涙をこぼしたりすんのって超あり得ねぇ! 笑える、笑いすぎて腹痛くなるかも!!
「……人の顔見ていきなり笑い出すなんて、凄く失礼じゃないか?」
 おっと、天宮南斗のオーラが一気に黒くなった。やべーやべー、早いとこ用事済まさねぇと。
「ごめんごめん。とにかく用あんのはお前じゃないんだよ。人捜してて――」
「菱井君が握りしめてるそのノートって何?」
 うわ、目ざとい。
「ちょっと貸してくれない?」
「断る」
「何か怪しいな」
「怪しくねーよ、っつか困るんだよ」
 こっちが困るって言ってんのに、天宮南斗は力ずくでノートを奪おうとしてきた。いやほんとこいつにだけは見られちゃまずいんですけど!

「ちょっ……あのノートってまさか!?」
「あっ、さ、さっきの生物の時間のあと、二組に置いてきたかも!」
「何やってんのよ! 天宮君に読まれたらうちら身の破滅だよ!?」
「ご、ごめん!」
「しかもあの人は中身知ってるっぽくない?」

 あ! 向こうで慌てて密談してる女子達、あれだな!
「おーい! いま立ち上がった女子! あんたでいいからこいつを『預かって』くれ!」
 ショートカットの子と目が合う。それだけで真の用件について、無言の会話が一瞬で成立した。
「あっ!!」
 間一髪、天宮南斗に奪われる寸前にノートは持ち主らしき子の手に渡った。
 俺が体でガードしてる隙に、その子は猛ダッシュで教室を飛び出していった。ありゃ凄い瞬発力だな、実は陸上部でした、ってオチかな。
 天宮南斗も追い付けないのを解ってんのか、諦めたみたいだ。
「……菱井君。ノートの内容について教えてくれる気は当然無いよね?」
「そんなんこれまでの経験上、解ってんじゃねーの?」
 とにかく任務は達成できた。
――ちょっと問題ありすぎたけど。

 北斗は騒動になったことに顔しかめたけど、一応天宮南斗にばれなかったってことで百円マックぐらいは奢ってやる、って言ってくれた。

「なんかさぁ、天宮って二組の菱井相手だと人が変わるよな。何でだろ」
「あれじゃん? 兄貴の方と仲が良いからじゃね?」
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ってやつか」
「お前難しい言葉知ってんなぁ」
……
「い、いまの聞いた?」
「まさか! 兄の方は知ってるとか?」
「「「い、嫌ぁぁぁーーっ!!」」」

「北斗。今日菱井君が妙なノート持ってうちのクラス来たんだけど、何か知ってる?」
「し、知らねぇな」
「俺の目を見て同じ事言える?」
「知らねぇったら知らねぇよ!」

 

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 拍手でのやりとりをきっかけにして生まれた、「菱井可奈子の惣稜腐女子調査――人気カプ解説」なる長文があるのですが、あまりに調子に乗りすぎていてボツにしました。そんな解説が必要なほど腐女子が溢れかえった高校は嫌すぎる。