【看病編】
2006.07.27 07:43
「――風呂入りたい」
北斗は額に乗せられたタオルが落ちないよう、天井を睨み付けながら言った。
今時額を冷やすのにずっと効率的なものが幾らでもあるだろうに、濡れタオルなのは看護人が付きっきりでいるための口実だ。
「駄目だよ、入ると咳が残るよ?」
「だって! 身体中汗でべとべとなんだぜ。気持ちわりぃんだよ」
「仕方ないなぁ……」
ちょっと待ってて、と言い残して南斗は北斗の部屋を出ていった。
「母さん。洗面器もう一個持っていっていい?」
「あら、どうしたの?」
「北斗が寝汗で気持ち悪いって言うから、拭いてあげようと思って」
「そこまで気を付けさせちゃって悪いわね、南斗。お湯も持っていきなさい」
南斗は北斗の部屋に戻ると替えの下着類を出し、いったん自分の部屋に行ってパジャマを持ってきた。
「今北斗が着てるのは洗濯してもらうから、一日俺ので我慢して」
「あー……サンキュ」
北斗は上半分を脱ぐと、お湯で濡らしたタオルを渡すよう言った。
「俺がやるよ。自分じゃ手が届かないところあるでしょ。そこ、余計に気持ち悪く感じられるんじゃない?」
南斗の言うことは正論で、北斗は仕方なく双子の弟の手に委ねることにした。
2006.07.27 23:05
「ちょっと丁寧すぎやしねえか、お前」
「気のせいだよ」
北斗としては「ねちっこい」という表現を使いたかったのだが、変な言い方をしたり下手に追求したりするとかえって酷い目に遭う、という事を十二分に理解していたので、やめておいた。
「――ちょっと待て。何でズボンに手ぇかけてんだ?」
「下半身も汗かいてるのは一緒でしょ?」
南斗の声がやたら甘いのは、何かを狙っている証拠。
熱で朦朧とした北斗の頭でも二パターンのシミュレートが可能だったが、どちらも結果としては最悪だ。
ならば抵抗するしかない。
「やぁーめぇーろぉー!! 自分でやる! 南斗は出てけ!」
「ほらぁ、病人が暴れちゃ駄目だよ?」
「……あなた達何騒いでるの?」
南斗が舌打ちしたのは多分北斗の空耳ではない。
(部屋の鍵かかってなかったのか――ってこの状況どう誤魔化せってんだよ!)
「北斗の身体拭くために脱がそうとしてるんだけど、抵抗に遭ってたところ」
「なっ!」
あろう事か南斗はサラリと事実を述べてしまった。
そう、確かに事実は事実なのだ。裏に隠された不透明な意図は別として。
「まぁ、病人なんだから大人しくやってもらいなさいよ。別に今更裸を見られたって困る仲でもないでしょう? 子供の時は一緒にお風呂入ってたんだし」
(こここ困るんだよ俺は! そりゃお互い嫌ってほど見慣れてるけどそれでも見られたらやべぇんだよ!!)
声に出来ない抗議で脳裏が塗りつぶされ、北斗は金魚のように口を開閉させることしか出来なかった。
母親が部屋から出て行っても北斗が暫く動けなかったのを、抵抗中断と認識した南斗は半ば強引に北斗のパジャマのズボンを下着毎引き抜いた。
北斗の予想のどちらが当たったのかは、二人のみぞ知る。
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