【「空き屋」裏側編】
2006.08.31 07:35
放課後田中達とサッカーしてから帰宅したら、北斗がまだ帰ってきていない事を母さんから聞かされた。 あいつが校門から出ていく姿はちゃんと見たのに。
「南斗、どこに行くの?」
「北斗探してくる」
母さんが後ろで何か言ってるみたいだったけど、俺は無視して家を出た。
最近の北斗の行動範囲は把握してないけれど、思い当たるふしならあった。近頃あいつは登校するとき、決まって或る家の二階を見上げる。壁なんかの感じだと多分廃屋で、小学生の頃の北斗だったら面白がって探検しようと言い出すだろう。
果たして、廃屋の裏手の塀のところで北斗の鞄が見つかった。きっとここから塀をよじ登って屋根に上がったんだろう。
俺もそのようにして、ガラスも雨戸も無い窓から屋内を除きこんだ。
家事で焼けたらしい室内は酷い有り様で、部屋の床中央に大きな穴まであいていた。
「北斗ー……?」
呼び掛けながら中に入る。床は想像以上に状態が悪く、俺は慎重に穴まで近付いた。
「あっ!!」
階下を見下ろした瞬間、俺の顔から血の気が引く。
北斗が目を閉じたまま身動きひとつせずに横たわっている。
最悪の事態が脳裏をよぎったけれど、落ち着いて行動しなければと自分に 言い聞かせ、まずは来た道を戻って外に出た。
2006.09.01 07:47
俺は北斗の鞄を拾うと、表に回って廃屋の玄関を探した。幸いなことにドアは半分ぐらい開いていた。
一階もかなり酷い状態だったけど、二階に比べれば足元がしっかりしてるぶん歩きやすかった。それでも駆け出したくなるのを抑えてあいつが落ちた部屋を探す。
「北斗っ……!!」
それでも最後の数メートルは一気に縮めてしまう。抱き締めようとして頭を動かすことはまずいと気付き、北斗の状態の確認を優先させる。
「良かった、生きてる――」
周囲をみても北斗が流血した様子はない。楽観のしすぎは良くないけど、単に落下のショックで気絶しただけなのかもしれない。
北斗を起こすかどうか考えていると、不意に気付いた。
今、廃屋の中にいるのは俺達二人だけ。
この場所は誰も知らない。誰も見ていない。
北斗自身でさえも。
制服を着たままの胸に触れてみる。北斗は動かない。
そのまま掌を撫でるように動かすと、目眩がした。
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