【「Sweet Heaven」裏側編】
2007.02.14 21:11
何故か学校に小野寺先輩が来てたから、俺は菱井を置いて下駄箱を離れた。
そして、こっそり理科棟に行って地学準備室に入る。今日は生徒会で何かあるらしいから、ここには誰も来ねぇはずだ。
パイプ椅子に座って、さっき菱井に話した人生初の本命チョコを鞄から出した。淡いピンクの包装紙に包まれた、上にバラの造花がついた箱は、見てるだけでなんか顔がにやけてきちまう。
メッセージカードには差出人の名前とクラスしか書いてなかった。たまんねぇなぁ、この奥ゆかしさ。
バレンタインのチョコはこう、可愛らしくあるべきだと思うんだよ。なのに南斗の奴ときたら即物的っつぅか……せっかく可奈子ちゃんに教えてもらって作ったトリュフ、喜んでくれたのは良いけど、あ、あんな事に使っちまうなんて信じらんねぇ――やめやめ、これ以上思い出す必要なんてねぇじゃん。
けど、何かまだ身体中がべたべたする錯覚がする……。
俺はやな気分を振り切ると、貰ったチョコを開封した。溶けてなきゃ全然、大丈夫。
いいとこの店の奴なのか、チョコはどいつも凄ぇ美味かった。こんなの食った事ねぇ。
最後の一個を堪能してると、地学準備室の扉が開いた。
「――やっぱり北斗、ここに来てたんだ」
「な、南斗!? お前生徒会は?」
「今日は早く済んだよ。先輩と先生方の話し合いがメインで、俺達が行った頃には殆ど終わってたんだけどね」
南斗は不機嫌そうな顔で俺を見ている。あっと気付いてチョコの箱を隠そうとしたけど、もう遅かった。
「何、それ。昼間のとはちがうね?」
「いや、これはその」
「俺と言う者がありながら、チョコレート受け取ったんだ? それも二個も」
「なっ……! それ言うならお前なんて俺の十倍以上は貰ってんじゃねぇのか!?」
俺は抗議したが、南斗は全く取り合わねぇ。
「俺はサービス業の一貫だからね。酒谷からもイメージは絶対に崩さないよう厳命されてるし。それに貰ったのは全部父さんと母さんにあげるよ」
鼻の下伸ばして食べてる北斗とは違ってね、と南斗はチクリと嫌味を言った。
2007.02.14 23:17
「でもやっぱり、一番腹が立つのは、菱井君とのアレなんだけどね」
「あのな南斗、ありゃ菱井が妹の可奈子ちゃんから預かってきたやつで――」
「誰からのチョコレートであれ、やってた事にかわりはないだろう?」
いつのまにか至近距離まで近付いてきた南斗が、笑顔で俺の腰を抱く。
「流石に、おしおきしないと駄目かなぁ?」
「はぁ!? それ笑いながら言う事か!?」
俺はまた油断しちまった事を後悔しつつ、南斗の腕ん中から抜け出そうともがく。けど体重かけて机に押し付けられる。
「ちょっ、幸崎先生とか酒谷とか来るんじゃね!?」
「先生は職員会議。酒谷はわっちゃんと一緒に帰ったよ」
俺、また天から見放されたみてぇ……。
「一度やってみたかったんだよね、こう言うの――覚悟してね?」
そして南斗は、本格的に俺の抵抗を奪い始めた。
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