【甘え方5選】
1.上目づかい
「ねーぇ、北斗」
ベッドに腰掛けてる俺の足下に跪いた南斗が、上目遣いで猫なで声を出す。
こう言うときは大抵ろくでもない事考えてやがるから、俺は無視して携帯ゲームを弄る。
「北斗、北斗ってば」
何度呼びかけられても、徹底無視。すぐに調子に乗るこいつは、偶には「おあずけ」を覚えた方が良い。
焦れた南斗が立ち上がり、俺の手から携帯を引ったくった。
「ちょっ、何すんだよ、返せよ」
――今度は、俺のが上目遣い。
「嫌だ。北斗浮気して返事してくれないから」
「機械すら浮気相手扱いかよ……」
いつもいつもいつも思ってっけど、南斗は本っっ当に心が狭い。
こんな馬鹿、俺じゃねぇと付き合ってらんねぇよな、うん。
南斗がまた膝をついて、座ったままの俺の腰に手を回す。また、こいつの方が上目遣いになった。
次に南斗が言う台詞は、だいたい予想がついている。
2.すそを引っ張る
北斗は誘いを掛けるのが苦手だ。
俺は大好きな北斗に「欲しい」って言うのに何の躊躇いも無いけれど、北斗にとってはそれを言葉にするのが凄く凄く恥ずかしいらしい。
あいつだって健全な男子高校生なんだから、そういう気分になっても全然おかしくないし、俺にとっては寧ろ嬉しい事なんだけど。
そんな時の北斗は顔を真っ赤にして、何か言おうとして止めて、を繰り返し――最後に俺の服の裾を掴む。
「どうしたの? 北斗」
解っているくせに声を掛けるのは、唇をへの字に結んで睨んでくる北斗の涙目を見たいから。
「……畜生、解ってるくせに」
「解らないよ? ちゃんと言ってくれないと」
うぅ、と北斗が唸る。裾を更に強く引っ張られた。
可愛い。可愛すぎる。
でもこれ以上やりすぎると、へそを曲げられて元も子もなくなってしまうな。
冗談だよ、って耳元に囁いて、イヤーカフスの少し下を軽く舐めた。
3.頬をすりよせる
「だいすき」
初めての時以来、終わって一眠りして起きた直後の南斗は必ずと言って良いほど俺の胸に頬を擦りつけてくる。
「好き。凄く好き。大好き」
寝る前とは別人じゃねぇのか、ってぐらいに子供っぽく「好き」を繰り返す。こんな事うっかり言っちまうと南斗の奴怒りそうだけど、普段は余裕ぶってんのに何か可愛くて、凄ぇ「おとうと」っぽい。だからこいつの頭が重くても我慢する。南斗の気が済むまで頬ずりさせてやる。
「お前毎回同じパターンで、よく飽きねぇなぁ」
「だってずっとこうしたかったんだ。俺達の部屋、一緒だった頃から」
うそ。それって小学生ん時からって事かよ?
「あの時は自分でちゃんと解ってなかったけど……お前との距離を無くして、ひとつになりたかった」
このマセガキ、って言って、俺は南斗の髪の毛を掻き回す。
変わったと思ってた南斗の中身は、今でもガキのまんまみてぇだ。
4.抱きつく
「――毎度毎度、怖ぇなら無理して観なきゃいいのに」
俺は抱きついてきた南斗の背中を軽く叩く。
ホラー全般苦手なくせに、南斗は俺がそう言うビデオ借りてくるたびに一緒に観る、って言ってくる。本編開始から五分もしないうちに顔上げられなくなんの判ってんのに、絶対に諦めようとしない。
一度菱井に愚痴ったら、「あー、それ俺のせいだ」って言われた。
『前に遊園地行ったじゃん、そん時天宮南斗がホラー駄目なの知って、俺、お前が北斗に甘えて抱きつけ、ってアドバイスしたんだよ』
南斗の奴、普段菱井のこと不当に毛嫌いしてやがんのに、そんなんだけは言うこと聞くんだな。
「ほんっと、現金」
「何? 今何か言った!?」
南斗は俺が驚かそうとしたって思ったらしく、ますます強く抱きついてきた。
5.キスをねだる
「なぁ。キスして」
「え!? 今なんて言った?」
情けないことに、北斗が稀に積極的になった時、俺は耳を疑う癖がついてしまっている。
「だから、キスしてって言ってんの」
北斗はちょっと怒った声で言うと、俺の頭を引き寄せた。けれどギリギリのところで止まる。どうしても俺からして欲しいらしい。
北斗のお望み通り、最後の距離は俺から縮めた。
最初はすぐに噎せていた北斗も、今では随分キスに慣れた。そうさせたのは俺なんだ、って思うと頭の芯が熱くなる。
――でも、やっぱり気になる。
「北斗。今日学校で何かあった?」
「ね、ねぇよ」
判りやすい嘘の態度。北斗が誤魔化すのは、多分俺がらみだからだろう。俺が仕組んだことが原因で、今でも北斗は傷つくのだ。
「もう一回、する?」
「ん」
俺が謝ったらきっと、北斗は余計気にするから。
代わりに、お前が欲しいだけキスをあげる。
(2006/09/25)
番外編/polestarsシリーズ/目次/配布元:SCHALK様