【雰囲気的な5つの詞(ことば):想】
01.どうか受け取って
俺達の十七歳の誕生日は、両思いになって初めての誕生日。「兄弟」じゃなくて「恋人」なんだから、どうしても北斗に何かプレゼントしたいと思った。
中学生の時から使っている貯金箱を遂に壊し、中に入っている金額を数えると思っていた以上に貯まっていた。
買うものは指輪と最初から決めていた。以前、普通のカップルは堂々と指輪で関係を主張出来るんだ、と言うような意味合いの、北斗の寂しそうな呟きを聞いて、あいつが少しでも安心してくれるなら、って思ったから。
伊勢原がよく行くというシルバーアクセサリー店で、俺は色々なタイプの指輪をああでもないこうでもないと見比べて、二時間かけてやっとあいつに似合いそうなデザインを見つけた。
そして今、俺は北斗の部屋の前に立っていた。
きっと俺は凄く緊張している。指輪を差し出したとき北斗はどんな顔をするだろう――そんな事を考えながら、俺はドアをノックした。
02.君が望むなら
「南斗は、俺に何か期待してることってあるか?」
「別に? 俺は北斗がいてくれるだけで良いんだから」
確かに「お前がいればそれで良い」って或る意味最高の殺し文句なのかもしんねぇけど、そう言われてただ満足するだけじゃ駄目じゃん、って俺は思う。
南斗は何かにつけて俺の世話を焼こうとするし、しかも俺が気付く前にそれが終わってたりするから、一方的に「してもらってる」感がどんどん溜まってくのを何とかしたかった。
「すんません。南斗いますか?」
昼休み、俺は自分から四組の教室に出向いた。取り次ぎ頼んだ奴が南斗の席に辿り着く前に、あいつは俺に気付いてかっ飛んできた。
「いくぞ、ほら」
「待って!」
俺が先に立って歩き出すと、南斗は慌てて横に並んだ。
「……びっくりした、北斗がうちの教室に来るなんて」
「俺から動くのが当然だろ、お前への誕生日プレゼントなんだから」
俺の方からはまだこんな些細なことしか出来ねぇけど、南斗が望む事をもっと沢山叶えてやれる自分にこれからなってけば良い、って思う。
03.言葉に出来ないほどの
北斗は今、俺の隣でくったりと横たわっている。目を開けるのも億劫なのか、額に張り付いた前髪を払ってあげても微かに吐息を漏らすだけだ。
無理をさせすぎたか、と言う後悔、それと同じぐらいの未だ足りない、と言う貪欲とがない交ぜになった視線で俺は北斗を見おろす。
本当に、何て言っていいか判らないほど今の俺の心の中では様々な種類の感情が、それぞれ膨れ上がって騒がしいことになっている。
元々が100パーセント北斗でいっぱいだったところだ。膨張すれば、溢れる。好き、なんて単純な単語では表現出来るはずがない。ひどくもどかしい――言葉に出来ないのが、北斗に伝えきれないのが。
上半身を起こしていた俺は、再度布団の中に潜り込んだ。そして意識の殆ど無い北斗の身体を引き寄せる。そこに耳を当てると、呼吸で胸が上下しているのがダイレクトに感じられた。
このまま触れ合っていれば、想いの全てを体温から伝えることが出来るだろうか。
そんな他愛もない事を考え、無性に泣きたい気分になった。
04.どうすれば伝えられる?
「何で北斗っていつもいつもそうなの?」
表情は基本、笑顔ばっかの南斗が眉をしかめてる。珍しく怒ってやがるなぁ……って、怒らせてるの俺だった。忘れてた。
そんな俺の思考を読んだのか、南斗はますます不機嫌になった。
「俺が好きだよ、って言ったら必ず嫌な顔するし、触ると怒るし。二人きりの時でもだよ? 北斗って本当は俺のこと愛してないよね」
「ばっ……! んなこたねぇよ!」
どうだか、と南斗はそっぽを向いた。
確かに南斗の言った事は間違いじゃねぇ、事実だ。でもだからっつって嫌いってわけじゃねぇんだ。
じゃなきゃ南斗にあんな事まで許すかよ。
ただ、俺と南斗のペースは双子と言えども全然違う、ってだけで、俺は俺なりに南斗と恋愛しているつもりだ。
けど、南斗にゃ全然伝わんなかった、って事だよな。手っ取り早く伝えんにはどうすりゃいいんだろ――やっぱ手段は一つっきゃねぇか。
「南斗、こっち向け」
俺はまだ膨れてる南斗ににじり寄ると、ちょっと強引に後頭部ひっ掴んでキスしてやった。
05.永遠に君を想う
『ほっくん、ぼくのおヨメさんになって』
生まれて初めてのプロポーズは三秒であっさりと断られてしまったけれど、十年以上経った今、その相手は俺の腕の中でゲームをして遊んでいる。
「北斗。そのゲーム面白い?」
「まぁ、期待はずれって程でもねぇけど……下田の奴、ほんとゲームなら手当たり次第だな」
北斗が今プレイしているのは、友達から薦められたと言う恋愛シミュレーションゲームだ。
「お前も文章読んでてケツのあたりムズムズしてこねぇ? 今時こんなマジになって永遠の愛を誓い合う高校生なんていんのかよ」
「ここにいるよ?」
「はぁ!?」
驚いて振り向いた頬に軽くキスすると、北斗の手からコントローラが滑り落ちた。
「おっ、お前何言っちゃってんの?」
「俺は、今までもこれからもずっと北斗だけだよ。北斗が俺を嫌いになっても、俺は死ぬまでお前を好きでいるよ」
いや、死ぬまでだなんて短すぎる。死んでも、生まれ変わってもきっと俺は北斗を想い続けるだろう。
「今度は唇に誓いのキス、させて」
「お前、ゲームより恥ずすぎ」
北斗は顔を真っ赤にして、それでもちゃんと首を縦に振ってくれた。
(2006/11/04)
番外編/polestarsシリーズ/目次/配布元:Air.様