【秘密のデートスポットで10のお題:02.放課後の音楽室】
二年二組の清掃担当範囲には音楽室が含まれている。芸術棟まで移動すんのは正直面倒だけど、一度靴履いて外に出なきゃなんねぇ第二校舎の被服室や調理室とかよりゃマシだ、と当番が来るたび自分を納得させている。
「天宮。今日はお前が鍵当番な」
「あぁ」
同じ清掃グループの連中は、未だグランドピアノを乾拭きしてる俺を置いて先に音楽室を出て行った。
小学生の頃もリコーダー演奏で四苦八苦してた俺から見れば、ピアノなんてこんなデカくて操作するところが沢山ある楽器を自在に操れる奴は尊敬に値する。女子で弾ける子は結構いたけど、一人だけ男子もいたな。しかも俺が知ってる中で一番上手かった。
「北斗。まだ掃除中?」
「あ? お前何でこんなとこ居んの?」
「うちのクラスは美術室担当だから」
つまり南斗も掃除当番のために芸術棟にいた、っつぅわけか。しかも躊躇いなく俺に声かけてきた、ってことはこいつも鍵当番なんだな。
「入って良い?」
「別に構わねぇんじゃね?」
南斗は音楽室に入ってくると、真っ直ぐに俺とグランドピアノのところまで歩いてきた。
「あと脚んとこで終わりだから、もうちょっとだけ待ってろ」
南斗の返事の代わりに聞こえてきたのは、ピアノの音。俺が立ち上がって見たのは、南斗が人差し指で一個ずつ鍵盤を押してるところだった。音の長さやタイミングは無茶苦茶だけど、音の出る順番には何か聞き覚えがあった。
「これ、CMとかでよく流れてる?」
「うん。エリック・サティって言う人の曲。この前初めてタイトルを知ったんだ」
「ふぅん、何っつぅの?」
「――『お前が欲しい』」
凄ぇ真剣な目で見つめられてそんな直球な事言われたら、幾ら会話の流れ解ってても錯覚しそうになる。
しかも、音楽室の大きい窓から入ってくる夕方の光だけが照明代わり、って状況は雰囲気たっぷりで、心拍数が勝手に上がっちまう。
「北斗。作業終わった?」
「え、うん、全部拭いた」
「じゃあ、一緒に職員室まで鍵を返しに行こう? 俺はその後生徒会があるから」
なんだ……。
って何でそこでがっかりしてんだよ俺!
「ほら、行くよ」
先に音楽室を出ようとしてる南斗に声をかけられ、俺は慌てて後を追った。廊下に出てからドアを閉め、鍵を掛けて確認する。
「あの曲の入ったCD、今日帰りに買うつもりなんだけど」
人気のない芸術棟の廊下を並んで歩いてる時、南斗がそんな事を言った。
「今度は歌詞の方で告白したいな、俺の部屋で」
(2006/10/22)
番外編/polestarsシリーズ/目次