INTEGRAL INFINITY : extrastars

【秘密のデートスポットで10のお題:03.押入れの奥】

 南斗と喧嘩した。
 理由は凄ぇくだらねぇ事なんだけど、俺にしてみりゃ滅茶苦茶腹が立っている。
 こういう時は大抵菱井に連絡して遊びに行ったりして憂さ晴らしすんだけど、流石に二年近く経ってりゃ南斗も俺の行動パターンを把握しきってっから、今回は敢えて原点回帰してみることにした。

 自分の靴を下駄箱ん中に隠してから、客間に行って押し入れを開けた。
「おっ、下の段はあんま布団入ってねぇな」
 片側に寄せたら十分なスペースが空きそうだ。俺は早速実行に移し、押し入れの奥に潜り込んで内側から襖を閉めた。
 ガキん時は喧嘩のたびによくこうやって色んな部屋の押し入れに隠れたんだよなぁ。南斗は隠れん坊の鬼の才能がまるで無くて、俺が飽きて出てくるまでめそめそ泣いてばかりいた。さぁて、今は何分で見つけられっかな?

――やべ、いつの間にか寝ちまったみてぇだ。
 今何時かと思って、とりあえず持ってきた携帯を見ると既に夜の九時を超えていた。
 しかも何か凄ぇメール来てるし。気付かなかったのは、音で気付かれないようマナーモードにして布団の間に突っ込んどいたからだろう。
 送ってきたのは菱井、酒谷、わっちゃん……内容は言わずもがなだ。

『天宮南斗から電話来たぞ。お前らまた喧嘩したの? 俺にも連絡無しって結構ヤバい?』
『ミナミヤがキタミヤのこと大捜索中。僕もマークされてるから匿えないけど、無事逃げ切れることを祈る』
『北斗いまどこにいんの? 南斗が半泣きで電話してきて面白かった。ガキの頃と変わんないねアイツ』

 やっぱり絨毯爆撃かよ。
 ってか酒谷、前から思ってたけどお前南斗の親友じゃねぇのかよ。どっちの味方なんだよ。

 こりゃあ南斗の奴、相当騒いで大事にしてやがるな。ちょっと隠れて脅かしてやるつもりだったのに、眠っちまって相当時間が経過したぶん、今更外に出て行きにくい状況になっちまってる。
 とりあえず、あいつらにメール返しとこう――くだらねぇことで俺が腹立ててるだけ、実は客間の押し入れん中で寝てた、と。
 あー……腹減ったなぁ。仕方ねぇ、家族全員眠った頃にここ出て残り物かなんか食おう。ホントは炊きたてのメシと、わっちゃんに金渡して無理言って買ってきて貰った高級明太子の最後の一腹、食うつもりだったんだけどなぁ。
 あの味を思い出したら唾が湧いてきて、ついでに怒りも復活してきた。
「もう一眠りすっかぁ」
 そう独り言呟いて、身体の向き変えた時だった。
 スパァン、って音がするぐらい勢いよく襖開けられた。

「居たぁ……やっと、見つけた」

 またもや音がするぐらいの勢いで、南斗が畳の上に尻餅をつく。
 俺は慌てて襖を閉め直そうとしたけど、南斗が身体を割り込ませてきて、出来なかった。しまいにゃ押し入れの下段半分という狭いスペースに男二人が入り込むという、凄ぇ苦しい状況になってしまった。反対側の布団の高さがぎちぎちじゃねぇから頭はそっちにやれるのが救いだ。
 南斗は片手で襖を閉め直すと、押し入れの壁に押しつけられて逃げられなくなった俺のほうに更に寄った。畜生、これが狙いか。
「父さんがお前の靴見つけるまで全然わからなかった。こんな所に居たなんて」
「ちょっ、俺さっき怒りを新たにしてたとこなんだけど」
「ごめん、まさか北斗があんなに怒るだなんて思わなかったんだ――あれ、本当は食べてないから」
「何?」
「残り少ないのに箱が邪魔だ、って母さんがタッパーに入れ直したんだよ」
 ってことは俺の明太子は未だ冷蔵庫にあるってことか。じゃあなんで南斗は自分が食っちまったなんて嘘ついたんだ?
「北斗があれ、『美味い、幸せ、わっちゃん大好き』なんて言いながら食べるから……」
 ひょっとしなくてもこいつ、わっちゃんに嫉妬してあんなこと言ったのかよ。
「お前馬鹿だ」
「そんなの言われ慣れてるよ、主に酒谷に」
――やっぱり酷いな、酒谷からの扱い。

 一応誤解が解けて俺が何となく許したところで、南斗の腕が俺の背中に回された。自然、密着度が上がる。
「そう言えば子供の頃二人で押し入れ入った事無いよね」
「お前、暗くて狭いところ嫌いだったじゃん」
「今なら寧ろ燃えるかも。ここ、布団広げられるし」
 こいつ、本当に反省してんのか?
「高さの考慮を忘れて脳天ぶつける前にその考えを捨てろ」
 って言うか南斗に見つかったんならとっとと出てメシが食いたい。
「えぇ、もっと前向きに考えてよ。上段を使うとか」
「お前は万が一押し入れ壊した場合の言い訳考えられるのか? あと襖を蹴破った場合の」
「……北斗って現実的すぎるよね」
 ここ出たら南斗の目の前で、ハートマーク付きで「わっちゃん愛してる」って言いながら明太子食ってやる。

 

(2006/08/15)

番外編/polestarsシリーズ/目次

 他人から見れば犬も食わない痴話喧嘩。と言うより北斗の怒りのツボ自体がしょうもないところに存在しているような。初登場(メールだけ)わっちゃんは本名・和地一弥、「双子を名前で呼び捨てに出来る」間柄の人です。双子が二年次の続編を書くならば出そう、と思っている人。(この話の時間軸は三年次)