【秘密のデートスポットで10のお題:04.屋上】
あいつが未だ帰りたくないから屋上行こう、って言った時点で警戒しとくべきだった――給水塔の壁面に押しつけられてる俺は絶賛大後悔中だ。
「ちょっ……おまっ、やめ……!」
「嫌だ」
「ヤバイだろ、学校だぞ……ぁっ」
「場所なんて今更でしょ、北斗」
畜生、どうしてシャツの裾ちゃんとズボンに突っ込んどかなかったんだ、俺。職員用下駄箱前のマネキンの服装見習うから、どうか勘弁してくれよ。
「大丈夫。誰もいないし、来ないよ。俺の言うこと外れたこと、あった?」
わざと芝居がかった口調で南斗が俺の耳元に囁く。俺は悔しいのと耐えなきゃなんねぇのとで唇を噛んだ。こいつの言うとおり、確かに今までは誰にも見つかんなかった――「今まで」なんて単語が出てくんのが正直忌々しい。
最初の時俺がうっかり流されたりなんかしなけりゃ、南斗がこんなに調子づくなんてこたぁ無かったんだ。前なんかとうとう地学準備室で……次の日、幸崎先生の顔まともに見らんなかった。返せ、俺のあの部屋に対する神聖な想いを返せ!
って、頭ん中でつらつら独り言言ってんのは、そうしねぇと今にも感覚を持っていかれそうだからだ。
俺よかずっと効率よく学習することに慣れてる南斗は、こんな事まであっという間に上達しやがった。どこをどうすりゃ俺がどんな反応返すか、もうことごとく知り尽くされちまってる気がする。その上で半端に煽って来やがるから始末が悪ぃ……っ!
「――。――?」
あぁ、南斗が何か言ってやがる。多分間違いなく、真っ昼間からは聞くに堪えない言葉だ。
無言の抵抗虚しく思考をぐちゃぐちゃに掻き回されちまって、俺は訳も分からず何度も首を縦に振った。
「駄目。ちゃんと声に出して言って」
南斗に意地悪く微笑まれて、俺の意識がクリアさを取り戻した。
「んな事言えるかっ……!」
嫌だ嫌だ嫌だ言いたくないここ校内で外で言えない辛い欲しい我慢しねぇと止めろ我慢出来ねぇもう無理欲しい欲しい欲しい――
「あーっもう! 人の安眠妨害するのはやめてくれ!」
俺達から数メートルも離れてねぇところで、酒谷が、こっちを睨みながら立ち上がった。
(2006/08/18)
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