【秘密のデートスポットで10のお題:05.後部座席】
「一家四人で旅行は久しぶりだな」
「そうねぇ」
父さんと母さんは、それぞれ運転席と助手席で楽しそうに話している。
確かに、俺なんかうちにクルマがあるって事すら忘れかけてたぐれぇだけど、父さん運転の腕は大丈夫なんだろうか。
にしても、何でこんな時間にテンション高いんだよ、うちの親。目的地が遠いからって夜中に叩き起こされて、こっちは凄ぇ眠いんですけど。
隣に座っている南斗も同じらしく、後部座席のドアにもたれてうとうとしていた。
あー……俺もさっさと眠っちまおうかなぁ。
けど、そういや俺より南斗のが先に寝てるのって珍しいかもしんない。
大抵俺のが意識叩き落とされるし、ただ一緒に寝るだけの時も、俺の寝顔を見るのが好きだから、って、南斗は絶対に先には寝ない。しかも俺よりかなり早く起きて自分の部屋戻っちまうし。
俺が南斗より先に起きた事ってあったか? ――あ、「初めて」の時じゃん。俺の胸、枕にされてたから寝顔は拝めなかったけど。
やべぇ、どうしよう。
離したくない、って言われて抱きしめられた時のあいつの体温とか、あの日一日思いっきり甘やかされたこととか、色々思い出しちまったら――今、凄ぇ南斗に抱きつきたくなってきた。
でもここクルマん中だし、前に親いるし。下手なこと出来ねぇよなぁ……。
俺は二人に気付かれないよう座席の中央寄りに移動した。シートに思いっきり背中預けて目を瞑り、南斗の左手を探す。
指と指とが触れたのを感じて、それを握る。たったそれだけでも南斗の体温が凄ぇ伝わってきて、何かちょっと安心した。
次に意識が戻った時、クルマはどっかのサービスエリアに停まってるらしかった。
右半身の下にシートとは明らかに違う弾力を感じて横を向くと、南斗の顔が間近にあった。
「うわっ」
どうやら、寝てる間にバランス崩して南斗に寄り掛かってしまったらしい。
慌てて身体を起こそうとすると、腕を掴まれた。
「父さん達はご飯食べに出てるよ」
「南斗、起きてたん?」
「気がついたら北斗と身体が密着してるんだもの。そのままずっと寝たふりしてた」
親が戻ってくるまでこのままでいよう、だなんて南斗に言われ、俺はもう一度南斗の上に身体を重ねた。
「北斗の方から、って何か嬉しいな」
「偶然の結果だぜ、言っとくけど」
「でも北斗、俺の指ずっと握ってたでしょ?」
「あ」
言われたとおり、俺の右手は未だ南斗の指を軽く握ったままだった。
また寝たふりをした俺達は、戻ってきた親に起こされたけど、その後目的地に着くまでずっと、こっそり互いの指を絡ませ合っていた。
(2006/08/26)
番外編/polestarsシリーズ/目次