【秘密のデートスポットで10のお題:09.地下室】
「どの野菜どれだけ持ってくんだっけ? 俺全部憶えきれてねぇよ」
「ちょっと待って。一応メモ取っておいた」
天文部の冬合宿の間、俺たちは幸崎先生のお兄さんのペンションに世話になっている。その代わりに色々手伝う事になってて、今は料理に使う野菜を貯蔵庫に取りに来てるところだ。
こんな、いわゆる地下室なんて生まれてこの方入ったことなくて、俺はちょっとわくわくしていた。あと十歳ガキだったら、手伝いそっちのけで遊んでたな、多分。
南斗と俺が頼まれた分だけの野菜を選び出してると、入り口の向こう側でドサドサッ、って連続して大きな音がした。
「今の、何だ?」
「ちょっと、外を見てみようか」
南斗は入り口のドアを開けようとした――けど、あいつはいつまで経っても外に出ない。
「まずい。ドアが開かない」
「マジ!?」
「多分、さっきのは屋根の雪が落ちた音じゃないかな。凄く量が多くて、結果的にドアを押さえ込んでいるのかも」
「やべぇじゃん、それ! すぐ助けを呼ばねぇと」
俺はズボンの尻ポケットから携帯を出したが、画面の表示は無情にも圏外だった。そういやこの近辺って最初っから電波届かないんじゃん……。
「どうしよ、連絡取れねぇ」
「ドアを叩いても、雪が音を吸収して気づかれる可能性低いかもね。だったら大人しく待っていた方が得策かも」
戻ってこない俺たちの居場所に先生のお兄さんが感づく可能性は高い。案外すぐに助かるかもしんねぇな。
それにしても――寒い。
「電灯はあんのに暖房器具は皆無かよ」
「貯蔵庫なんだから、そうだろうね」
何冷静に答えてんだ、南斗の奴。っつかこういう会話の流れだと、この後言い出しそうな台詞の想像、簡単につくんだけど。それは癪だから、いっそこっちから言ってみっか。
「なぁ。冷えて風邪引くとヤバいから、ここは定番の体温で暖め合うってのはどうよ?」
「え!? 何で北斗が先にそれ言うの!?」
「――やっぱりな」
流石に一年近く「そう言う意味」で付き合ってっと、南斗の思考が手に取るように解る。あんだけ互いに距離あった中学時代を考えると嘘みてぇだ。
「まぁ冗談だけどな」
「え。それ酷い……」
「発見された時誤魔化す羽目になるだろ」
「どうせ部員全員俺達の事知ってるじゃないか」
「そう言う問題じゃねぇんだよ!」
けど、こいつの頭のネジがいつ追加でぶっ飛ぶのか、いつ締め直す予定なのかは全っ然わかんねぇ。
(2006/10/19)
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