INTEGRAL INFINITY : extrastars

【「して」5題】

1.僕を見て

「良介はいつも何処を見ているんだ」
 向かい合ってハンバーガー食ってる最中、唐突に優にそう言われた。
「何、いきなり」
「例えば今日のように朝から夕方まで一緒に行動していても、目が合うのはほんの数回だ」
 よく数えてるなそんなの、と俺は笑い飛ばそうとしたけど、優の目はちっとも笑っていなかった。
 まー、確かに、俺がちゃんと優の目を見てねーのは当たってるしな。
 昔は絶対負けねーとばかりに睨み付けてたもんだけど、心境の変化は行動も変えるのか、近頃は何となく視線を合わせづらくなってしまった。
 見つめられると照れちゃうのー、なんて我ながら乙女思考でキモい。プライドにかけて優にそんな事を知られたくない。
「俺は、こっちを真っ直ぐ見ながらスピッツのように吠えるお前に惚れたんだ」
「ス、スピッ……!?」
 俺は犬か? キャンキャンうるせーと言いたいのか!?
「そう、その顔」
 優は俺を見てにやり、と笑った。
 あ……今、俺達ちゃんと視線が合ってる?
「そうやってちゃんと俺を見ろよ、良介」
 楽しそうな様子の優に、俺はつい趣味悪すぎ、なんて言ってしまった。

2.笑って

 優の表情は基本、仏頂面だ――と、俺は思っている。あいつのファンクラブみたいなもん作ってる女子に言わせると「きりっとして威厳があって、格好良い」らしいんだけど、俺に言わせれば単に顔の筋肉の動かし方知らねーだけっぽく感じる。
 まぁ、最近じゃ表情のマイナーチェンジが出来るようにはなってるけど、未だに優が爆笑するところだけは見たことがない。
――以上、俺がしようとしてたことに対する言い訳。

「何をやっているんだ?」
 俺の両手首は優にあっさりと捕まえられた。そのまま怖い顔で見下ろされる(こういう顔のバリエーションが一番豊富だ)。
「ちょっと腰、くすぐってやろーかと思って」
「……時々、良介は本物の馬鹿に見える」
「その馬鹿に惚れたのは何処の誰だよ」
 いつものように俺が憎まれ口を叩くと、優は膝の上に半ば乗りかかっていた俺の身体を強引にひっくり返した。
「誘った以上は降りるなよ」
 見たかったのとは程遠い、いつものニヤリ笑顔で。

3.手を繋いで

 殆ど物心つくかつかないかの頃からの幼馴染みだから、未だ小さかった頃の俺と優が一緒に写っている写真はアルバム漁ると結構ある。
「……おー、二人ともスモック着てる」
 確かこれは俺の入園式ん時の写真だ。俺より一年早く幼稚園児になった優が俺の手を引いている。
 俺達にも純真な時代ってのがあったんだなー、一応。
 何かと優と比べられるようになってからは、こんな風に仲良くお手々繋いで、って事はまず無くなった。今やこの手に残った優の掌の記憶は、あの事故の時のと一応片思いしてた頃の忘れたい程恥ずかしい奴ぐらいしか無い。
 寧ろ胴体の方に沢山残ってるからなー……。
 けど写真を眺めてるうちに、俺もたまには園児の頃みてーに素直になっても良い気がしてきた。
 甘えるのははっきり言ってヘタクソだから、「手、繋いで」って言ったら優に気色悪がられそうだけど。

4.キスして

「なー、優。お前って今欲しいものある?」
 俺のベッドを占領していた良介が、突然そんなことを訊いてきた。
「車」
「即答だなー……」
「免許は夏に取得済みだからな」
「受験勉強と平行だなんて信じられねーよ、あんた」
 良介が短い掛け声を発したのは、起きあがって座り直しでもしたのだろう。
「車以外は?」
「今のところ間に合っている」
「えー、他にねーのかよ」
「それを俺から聞いてどうするつもりなんだ」
 椅子を回転させて良介と向き合う。すると良介はばつが悪そうに俺から視線を外した。
「……貧乏人が出せる額じゃなきゃ、お前にクリスマスプレゼント買えねーじゃん」 
 良介の言葉に思わず顔が綻ぶ。貰いっぱなしになるのは我慢ならない、と言うのがこいつらしい。
「別に今無理をしなくても、お前が稼ぐようになってから一括でくれれば良い」
「何かスッキリしねーんだよ、俺が」
「なら利子ぶんと言う事で、俺と逢う時は最低一回良介からキスしてくれれば良い」
「はぁ!?」
「そういうのも俺にやられっぱなしでお前は良いのか?」
「……よし、やってやろーじゃん」
 こいつを乗せるのは簡単だ。何故か腕まくりする良介の唇が近づいてくるのを、俺は黙って待った。

5.「して」

「……して」
 やけにしおらしいな、と優が笑う。そう言われるとやっぱり悔しくなって、俺はつい眉をしかめてしまう。
 持って生まれた性格はそうそう矯正できるもんじゃなくて、相も変わらず素直という単語とは程遠い自分に呆れ果ててしまう。
「本当に――お前の、そう言うところが良い」
 悪趣味だと思う。けど、逆に勝手に自分だけ先走ってこっちの都合を平然と無視する優の、そんなところが嫌いじゃない俺も人のことは言えない。
「いいから! 早くしろ、さっさとしてくれ、っつーかして下さいお願いします!」
「……ヤケになるとまるで色気が無いな」
「こんな時に色気出してどーすんだよ」
 俺は優を見下ろしながら睨む。会話するたびこんな調子だけど、昔からだしお互い様だから、俺達はこれで良い。

「じゃあ、やるぞ」
「お、おう」
 伸びてくる優の腕に、俺は身構える。

「あ゛ー痛ででてっ、そこ痛い痛い痛いっっ!!」

 

(2006/12/10)

番外編/polestarsシリーズ/目次/配布元:Mutant様

 優良で初めてのお題チャレンジ。菱井のある種の子供っぽさ全開。最後の悲鳴はご想像にお任せいたします。