INTEGRAL INFINITY : doublestars

 カメラの焦点距離と絞りを正しく設定し、レンズを北天に向けてシャッターを開けたままにする。頃合いを見計らってシャッターを閉じれば、望む星の写真が撮れているはずだ。
「天宮君。ちょっと訊いて良いかな」
 何枚ぶんかの作業を終えた時、天文部の顧問をお願いしている幸崎先生が俺に話しかけてきた。他の部員はもう宿泊先に帰っていて、満天の星空の下には俺と先生だけしかいない。
「君は、星に興味を持ったきっかけは自分の名前だって言っていたよね」
「ええ、そうですけど」
「だったらどうして南天の写真を撮らないんだい?」

 瞬間、心臓が凍り付くかと思った。

「君が撮影する時、カメラはいつも北ばかり向いている。昼間現像した写真も天の北極やおおぐま座が多いね。天宮君の名前は『南斗』で、北斗七星にちなんで名付けられたのは、君の双子のお兄さんの方じゃなかったかい?」
 幸崎先生は何もかも見透かしているようで――いや違う、そう思いたいのは俺の願望だ。
 先生になら、正直に話してもただ黙って受け入れてくれるだろう。何故か俺はそう確信していた。誰にも言えず一人で抱え込んできた、決して許されることのないこの想いが、膨らみすぎて出口を求めているせいかもしれない。

「良いんです、本当の理由は北斗の方にありますから。あいつは俺にとっての北極星なんです」

――それは隣り合っているように見えて互いの距離は遙かに遠い、二重星のような俺達の物語。

 

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 「polestars」連載中に読者様方からもご希望のあった、南斗視点の物語です。今度こそ慌てず騒がずマイペースに書いていければ、と思うのですが。