【anotherstars - Eclipse the Pleiades 09】
「酒谷。今夜の天候は良さそうだよ」
「それは何より。一応僕達の引退観測だし」
――あれから一年半が経った。
天宮は結局転校を取り止め、僕達は先月まで生徒会長・副会長コンビとして忙しく働いた。そして天文部の方も相変わらず表舞台に立たないまま存続している。
「ラストがすばる食、って何か良いな。俺、正直酒谷が羨ましいぜ」
そう言ったのはキタミヤ――天宮の兄だ。今、僕は天宮兄弟をそれぞれキタミヤ、ミナミヤと呼んでいる。両方と友人になった以上、呼び方を分けないと紛らわしいからだ。
一年半前のあの日、屋上でキタミヤはミナミヤを連れ戻すのだと幸崎先生に語った。キタミヤの作戦は成功し、今の二人は兄弟で恋人、という関係にある。
ミナミヤは念願のキタミヤを手に入れた途端、今までの態度は何だったのかと思うぐらいの人格崩壊を起こし、僕は彼の暴走を止めるために多大な苦労をする羽目になった。しかも、天宮兄弟の幼馴染みで何故か僕について回る和地によれば、この壊れた方がミナミヤの本性らしい。こんな奴に一時とはいえ惚れてしまったのは僕にとって一生の不覚だ。キタミヤには深く同情する。
キタミヤは幸崎先生を呼びに職員室に行き、地学準備室には僕とミナミヤだけが残った。
「今夜で俺達の部活動はおしまい、か」
「部員の九割が抜けるけど、まぁ、来年度の事は海原次第でしょ」
「酒谷――有り難う」
ミナミヤが僕の顔を真剣な目で見つめていた。
「な、何だよ急に」
「俺は酒谷が友達で本当に良かったと思ってるよ。お前がいなかったら生徒会も天文部も上手くいかなかったと思う。それに北斗と色々あった頃、酒谷が俺がおかしいのに気付いていてくれたのは嬉しかったよ」
思ってもみなかった天宮の言葉に僕の胸は詰まった。
「そんな……僕は何もしてないんだけど」
「あの頃の俺はもう本当に限界だったから、酒谷が何も訊かずに気遣ってくれた事で救われていたところはあったよ。俺の北斗に対する想いは誰にも知られちゃいけない、ってそれこそ子供の頃からずっと思っていたし」
なんて皮肉だろう。僕がずっと後悔している事を感謝されるだなんて。
でも、僕はもうミナミヤに遠慮しないと決めているんだ。
「僕はどうして訊かなかったんだろう、ってずっと思ってた」
「俺も、何で酒谷に言わなかったんだろうって思っていたよ」
その時、キタミヤが幸崎先生を連れて戻ってきた。海原も二人の後ろにいる。
外はまだ明るい。すばる食が始まるまで、僕達は明日からの未来についてとりとめもなく喋っているだろう。
fin.
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