【beforedawn 03】
照明を消し、プラネタリウムのスイッチを入れると暗闇に落ちた俺の部屋に光の粒が散った。
「う……わぁ、何回見ても感動もんだな」
北斗が心から感動したのだろう声で言う。それだけで、作成時の根気と苦労が報われたようなものだ。
「北斗が喜んでくれて嬉しいよ」
「嬉しいのは俺のほうだって――うわ、お前の身体中に星が映ってるぞ」
「北斗こそ」
俺達はベッドに並んで腰掛けている。プラネタリウムはアイロン台の上なので、より高い位置にいる俺達も必然的にスクリーンになってしまうのだと言うようなことを俺は北斗に語った。
「身体中斑点だらけだ」
笑いつつ改めて北斗を見ると、唇にもひとつ星が乗っていた。
「あ。こんなところにも星、ついてる――」
小さな光りに誘われるかのように、キスしていた。星を吸い取るようなつもりで北斗の唇を軽く噛む。薄く開いたその間に舌を差し入れた。
「んぁっ……」
こんなキスは、想いが通じ合ったあの夜以来殆ど始めてと言ってよかった。
貴重なものを惜しみながら味わうように、時間をかけて北斗の咥内を愛撫する。すると俺の動きに応えて北斗がこちらの舌を吸ってきた。瞬間、背筋に快感が疾る。
「んっ……!」
北斗が返してくれるのが途方もなく幸福で、俺は我を忘れてキスに没頭した。それは俺の一方的な想いではなく、証拠に北斗はこちらの背に腕を回し、キスの快楽に耐えるかのように力を込めた。その勢いで俺達の上半身はベッドに倒れ、自然な流れで互いの体制が変わる。
気がつけば北斗の身体が俺の下に、在った。
「あっ、ごご、ごめんっ!」
瞬間パニックに陥った俺は北斗から離れようとした――しかし人工の星空を映した北斗の顔を見て、動けなくなる。
今夜、この家に俺と北斗の二人きりで。
ずっと欲しくて堪らなかったものが、手を伸ばせば届くところに在って。
北斗を抱きたい。北斗の全てを俺のものにしたい。
けれど泣きながら助けを呼ぶ北斗の声が、俺の耳から離れなくて――。
気がつけば、北斗の手が俺の両肩に移動していた。北斗は僅かに眉を寄せ、
「いいよ」
ただ一言、呟いた。
最初、俺は自分の耳が信じられず間抜けにも「今何て言った?」と訊いてしまった。
北斗は今度は盛大に顔を顰めると「二度も言うかよ」と横を向いてしまった。
「え? ……本当に?」
無言のまま肯く、北斗。それを見た途端に俺の中で何かが弾けた。急激な緊張で心臓が破裂しそうなほどに鼓動する。
「あ、有り難う――有り難う、北斗」
「ちょっ、南斗お前何涙声になってんだよ!?」
北斗に言われて初めて、俺は涙がこみ上げてきている事に気付いた。
「うわ、本当だ。何だか格好悪いね俺。でもちょっと無理……」
自分で自分の気持ちをコントロールできない。ただあの時と違い俺を支配しているのは甘やかな不審だった。
「北斗、俺の頬抓って?」
「んだよ、夢だと思ってんのかよ」
北斗はかなり容赦なく俺の頬を抓ってくれた。痛い、夢じゃない。
漸く実感できた俺は、もう一度北斗の唇を貪った。
「やっ、怖っ……」
「大丈夫? やめる?」
「違ぇ、っ……!」
俺の問いに北斗は首を横に振った。
「やだ――なん、と、俺、お、おかしくなるっ……おかしくなるよ――」
訴える北斗の声は掠れて裏返り、酷く扇情的だ。
「なっていいよ、北斗」
だって俺はもう、とっくの昔に狂ってる。お前も一緒に狂ってくれるなら、俺にとってそれ以上の幸福は無いんだ。
そして俺は、共に狂うために北斗に熱を注いだ。
(to be continued...)
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