INTEGRAL INFINITY : extrastars

【酒谷編】

2006.07.11 07:56

 屋上の給水塔の影で寝るのは気持ち良い。
 始めたきっかけは人待ちの時間潰しだったけど、ハマってからは暇さえあればここで一眠りしている。僕は普段生徒会役員だなんてやってるからか、色々干渉されたり頼まれ事されるのが多くて、他人に見つからずに休息できるのは嬉しい。不本意ながら僕が高校生男子としては小柄なせいもあるんだろうけど。
 ただ、僕が見つからないということは他の屋上利用者は誰もいないと思っていると言うことで、僕が望まなくても込み入った話を聞かされてしまうことが時々ある。
 告白の現場とか別れ話ならまだ良いけど、一番始末に終えないのは馬鹿ップルだ。そういうのに限って物陰を求めてこっちに来るから困る――そう、今のように。
 ナニをしてるのかは僕の精神衛生上実況したくないんだけど、最初は必死で拒否していた相手があの手この手で陥落させられてとうとう諦めた辺りでいい加減僕にも我慢の限界が来た。

「あーっもう! 人の安眠妨害するのはやめてくれ!」

 わざと大声で言いながら立ち上がると、ついさっきまでいちゃついていた二人組の表情が凍り付いた。
「っ〜〜!!!!」
 悲鳴を上げようとした相方の口を咄嗟に塞いで盛大に溜息を吐いたのは、今期生徒会でも相棒になることが決まったばかりの、一応僕の親友であるところの天宮南斗だ。ちなみにパニックを起こしているほうはこいつの双子の兄貴の北斗。二年になってから北斗の方とも交友関係が成立したため、僕は弟をミナミヤ、兄をキタミヤと呼んで区別している。
「何か言い訳は?」
「……しようにも出来ないじゃない、どう考えても。酒谷、つまりこういうことなんだけど」
「了解。他ならぬ親友で相棒で会長で部長であるミナミヤの頼みですから、誰にも言いませんよ」
「さすがは酒谷、飲み込みが早いね。と言うよりあっさり受け入れてくれて驚きなんだけど」
 こいつらは気付いてないだろうけど、色々あって僕はとっくの昔に二人の関係について知っている。さすがに現場を見たのは初めてだけど。
「ところでこのままだとキタミヤ窒息するんじゃない?」
「あ」

 

2006.07.12 07:29

「一応ミナミヤが手を離す前に忠告しておくけど、あまり騒ぐと校庭(した)から誰か駆け付けてくるかもよ」
 釘を刺しておいたおかげで、解放されたキタミヤが暴れることはなかった。半泣きの真っ赤な顔でミナミヤを睨む。
「――帰るっ!!」
「あ、着衣の乱れだけは正しときなよ」
「っ!!!!」
 キタミヤは無言でシャツのボタンを留めると、猛ダッシュで屋上を飛び出していった。

「もう少しだったのに」
 残されたミナミヤはその場にどかっと座り込んだ。
「今までは成功率100パーセントだったんだ。初黒星」
 この場合成功率とは現場を目撃されなかった事を言うんだろう。
「成功した場所については解説不要。僕が足を踏み入れられなくなる」
「OK」
「って言うかするんなら然るべき所へ行け。今回はたまたま物分かりの良いこの僕だったからよかったけど、学校じゃ誰に見られるか」
 ミナミヤもそれは理解しているだろうけど、絶対的な自信があるのかそれとも馬鹿なのか。

 

2006.07.13 07:58

「その本性、特にお前のファンには見せるなよ? 少なくともこの一年は」
 今期の生徒会活動では、対外交渉は基本的にミナミヤの愛想と人気に頼るつもりなので、自分の評判を落とすような真似をされては困る。
「一部じゃ王子様扱いされてるのに、さっきのオヤジ態度をみたら百年の恋も醒めるよ」
「それちょっと言いすぎじゃない?」
 僕としては誇張表現と言うより自嘲なんだけど、こいつに友情以上の感情を抱きかけた時期があったのは人生の汚点だ。
「いやお前ノリノリだったでしょ、声だけでわかるよ。実は羞恥プレイとか好き?」
「好きって言うか、ぎりぎりまで追い詰められて迷ってる表情がたまんない。落ちた時なんかもう最高」
「キタミヤも厄介なのに目を付けられたね……」
 去年の冬あたりにミナミヤが何かやらかしてキタミヤに必死に追い縋ったり、反対に逃げたりしてる様子をリアルタイムで見ていたこっちとしては、あまりの豹変ぶりにキタミヤへの同情を禁じ得ない。
「酒谷は思わない? カノジョがいると仮定して」
「全く思わないとは言いきれないなぁ、不本意ながら。というかミナミヤさり気なく失礼じゃない?」
……僕もはやく恋人作ろう。
 僕達はしばらく馬鹿話を続けていたけど、ふとミナミヤが呟いた。
「そういえば酒谷とこういう話するの初めてかも」
「他の友達ともしてないんじゃないの、ミナミヤは。イメージ的に」
「それなりに付き合ってるよ、もちろん個人的なことは伏せて」
 だから全部隠さず喋れるのは気持ちいい、とミナミヤは言った。
 僕は或る人物を思い浮べた。まさかその人にまだ全部打ち明けてるんじゃないだろうな。
「――部活中にいちゃついて先生に見られないようにね」
「え、あ、うん」
 この調子だと確実に惚気ていそうだ――可哀相な幸崎先生。

 

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 逃亡編で出てきた「酒谷の目撃」のお話。まったくえらい災難です、酒谷も幸崎も(流石に教師にはある程度遠慮してるでしょうが)。続く再会編でもまるっと喋っている辺り、南斗は本心では惚気たくて惚気たくて惚気たくて仕方ないのかも知れません。