【再会編 南斗の場合】
2006.07.19 07:50
「な、おいあれって」
「みっちゃん、捕まえに行って暇そうだったら引っ張ってこいよ」
「ラジャー!」
突然背後から肩を捕まれた。
「北斗? 南斗?」
「――南斗のほうだよ」
振り返ると懐かしい顔があった。俺達兄弟の小学校時代の友達だ。確か、
「みっちゃん?」
「そう! よく憶えてたなぁ」
ごめんな俺どっちか判んなくて、と謝られたけど、もう何年も会って無かったし、当時の俺と北斗は今以上に見分けがつかなかったんだからしょうがない。
「いま暇?」
「時間はあるよ」
母さんに色々頼まれてるけど、夕方までに帰れば大丈夫だろう。
「実はそこのマックにさ、ヤマちゃんとか賢太とかみんないるんだよ。南斗も来ない?」
みっちゃんの言うとおり、マックの一角には小学校の休み時間や放課後に一緒に遊んだ面子がずらりと揃っていた。俺経由の友達も北斗経由の友達も両方いる。
「おー! よく来た!」
「こっち座れよ、な?」
最初はみっちゃんと交わしたようなやりとりがあり、それからこの集まりが偶然発生したことを聞いた。
「これで北斗もいれば完璧なのに、今日はいっしょじゃねえの?」
「北斗は朝から別の友達と遊びに行ってるよ」
「うっそ、信じらんない。北斗べったりのお前が他人との別行動許すだなんて」
――そうだった、ここにいるみんなから俺は、極度のブラコン認定を受けているんだった。
中学・高校では周囲に隠すことばかり意識してたから、かなり新鮮に感じた。
2006.07.19 21:14
中学受験組はだいたいエスカレータで高校進学していて、校区の関係で違う中学だった連中もそれぞれ違う学校に通っているらしかった。これだけいて一人も被っていないのが面白い。
中には俺が中学の時結構仲が良かった田中と同じ高校の奴もいた。あいつは元気にしているかきいてみたけど、接点は無いようで残念だ。
思えば田中が見つけた裏ビデオのチラシが人生の転機だったけど、冷静に考えるとかなり嫌だな、我ながら。
「南斗は高校どこ行ってんの?」
「惣稜。俺達の小学校から一番近いとこ」
「北斗は?」
「一緒」
何だよ今でもブラコン一直線じゃん、と一同から笑われた。まぁ本当のことだから仕方ないんだけど。
「あ。惣稜って言えばさ、中学んときの親友が行ってんだけど。林藤聡、知らない?」
「知ってるよ。今年同じクラスだから」
林藤なんて滅多にいない名字だから間違いようが無い。田中の事と言い、人間って思わぬところから縁が繋がってる、なんて感じた。
「だったらお前も目撃した? 惣稜の生徒会長がカノジョとヤッた痕背中じゅうに付けまくって水泳の授業に出たってやつ!」
――あまりに衝撃的な不意打ちで、コーラを気管に吸い込んでしまった。
「えー何それ、だいたーん」
「モテる奴は嫌味だな……」
「いや本人全然気付いて無かったらしくてパニくってたってさ」
「うっわ。その時の顔どうだった? 南斗」
判るわけないだろ!
俺が当事者なんだから!!
最初から仮面無しでいたため今更普段みたいに笑顔で取り繕うことも出来ずに咳き込むだけの俺を不審に思ったのか、賢太が電話を掛けはじめた。
「もしもし? オレだけどいきなりごめん、ききたいことあってさ……サトのガッコの生徒会長…………そう、例の。そいつって双子の兄貴いない? わけは後で話すからさ……」
通話が終わると賢太はパチンと派手な音を立てて携帯を閉じた。俺は思わず顔を背ける。
「――そうかお前か、南斗」
「観念しました……」
白状すれば当然、周囲は食い付くわけで。
「南斗にオンナかよ! 信じらんねぇ、昔は女子に興味無かったのに!」
「それが今じゃエロエロか、年月を感じるぜ」
「って言うか何でそんな悲惨なことに」
あぁ、もういい。どうせこいつらの前では仮面なんて被れないんだ、だったらとことん開き直ってやる。
「……首筋や胸にキスマーク付けまくって水泳の授業に出れなくしたら報復された。だってそんな意図があるなんて思わないだろ、好きな子に可愛い顔でシたいってねだられたら。尻尾振ってついていくのが普通の男の性じゃない?」
「いやそれ以前に水泳の授業出れなくする、って」
「俺の知らない所で他人に裸見られるって思っただけで嫌だったんだよ……」
「南斗思いっきりベタ惚れじゃん。どこで知り合ったんだよ」
「教えない。企業秘密」
「その子可愛い?」
「俺にとっては宇宙一。他なんて絶対考えられない」
質問はどんどん過激になっていったけど、普段惚気られない反動で、つい正直に答えてしまった。
もちろん、胸の大きさみたいな項目については誤魔化したけど。
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