INTEGRAL INFINITY : extrastars

【ダブルデート編 その3】

2006.08.09 07:30

 菱井は南斗を肩に担いでホラーライドから出てきた。
「おいっ、どうしたんだよ南斗!」
「何か気分悪くなったみたい。すまねーけど北斗、こいつ日陰のベンチとかで休ませてやってくんない?」
 菱井に代わって南斗を支えると、一気に体重がこっちにかかってくる。全身の力が抜けてるみてぇだし、顔色悪くて視線も定まってねぇ。
 幸いなことにあんまり遠くねぇ場所に休憩できそうな場所があったから、そこまで南斗を引きずっていった。

「おい、何か飲むもん買ってくるか?」
「……いい。ちょっと休めば多分治るから」
「じゃあほら、こっち」
 俺は南斗の頭を自分の膝の上に誘導した。いわゆる膝枕って奴だ。
「こんなところで、北斗、良いの……?」
「お前病人だろ」
 南斗は青い顔で薄く微笑むと、そのまま目を閉じた。

 しばらくそのままでいると、色気の無ぇ着信音が聞こえた。
 目を閉じたままの南斗が、自分のポケットから携帯出して俺に渡した。確認しろってことらしい。
 小野寺先輩からメールが来ていた。
「17時にゲート集合だってさ」
 なんかまんまと二人きりのデート状態に持ってかれた、って感じだな。
「――ま、いっか」

 

2006.08.10 07:30

【菱井と小野寺】

「良かったのか?」
「ちょっと天宮南斗には悪いことしちまったから、サービス」
 幾ら怖がりだからって、普通リアルで具合悪くなるだなんて思わねーもんな。俺が声かけなきゃもうちょっと、気合い入れて我慢できてたかもしれねーし。
「だから優が北斗の代わりに色々付き合えよ」
 俺は代わりか、と優が苦笑する。学校で数年ぶりに再会した時は、こういう人並みな表情出来るだなんて思ってなかったな。
「手始めにそこのパイレーツ、並ぼうぜ。ここのは360度回転するんだ」

 俺達は絶叫マシン中心にアトラクションを回っていった。けどさー――。
「優、何でひとっことも声出さねーんだよ!」
 優は何乗っても涼しい顔を全く崩さなかった。
「良介は面白いぐらい叫んでいたな」
「あーいうアトラクションは、敢えて絶叫するのが醍醐味なんだよ」
「だから地上にまで煩い声が届くんだな」
「優……たまにつまんねー奴って言われない? 乗ってるとき何考えてんの?」
 優は、コースターの加速度や空気抵抗、レールのレイアウトについてだ、と答えて俺を仰天させた。

 

2006.08.11 06:52

【北斗と南斗】

「おい、もう良いのか?」
「大丈夫……本音では北斗の膝枕手放したくないけど」
 自分のせいで時間が潰れるのはもったいないから、って南斗は起き上がった。
「北斗、どこ行こうか?」
 うーん……いったん具合悪くなった人間を激しいアトラクションに乗っけるのは心配なんだよな。
 かと言っておとなしい奴は男二人で乗んのは微妙なんばっかだし――南斗ならカルーセルの白馬に乗ってても似合いそうだけどさぁ。俺はご免だ。
「いや、乗り物はやめとこうぜ。お前の具合が悪化したらやだし」
「そんな、俺の為に北斗が我慢しなくていいんだよ? 絶叫とか色々乗るの楽しみにしてたんじゃないの?」
 一人で行けば良い、と言う南斗を俺は叱り飛ばした。
「馬鹿野郎、こんな時に単独で行動する奴があるか。南斗置いて遊ぶなんて出来るかよ」
「そもそも俺以外の人間と二人で行くつもりだったくせに……」
「それとこれとは話が別だっつーの。あ、そうだ、アレ行こうぜ。アミューズメントコーナー」
 そこなら普通のゲーセンに無いような、玉入れとかで賞品ゲット出来るゲームあるし、南斗が動くの辛そうな場合でも二人一緒に居られる。
 俺はまだちょっと渋ってる南斗の腕を、軽く引っ張った。

 

2006.08.12 15:50

 待ち合わせ場所に先に到着したのは俺達の方だった。
「菱井達、何か乗って遅れてんのかなぁ」
 南斗が悲しそうな顔すっから、俺は慌てた。
「俺達も楽しかったじゃん! こんなに景品貰っちまったし。南斗、何やらせてもコツ掴むの早ぇよなぁ」
「北斗もね。でも、これどうしようか……」
 確かに、このファンシーかつ結構でかいぬいぐるみ、男の俺らには不要だよなぁ……。
「あ、菱井達だ」
「ごめ、遅れた! ――うわー、お前ら二人とも、なんでそんな沢山ぬいぐるみ持ってんの?」
 俺は菱井達に簡単に経緯を説明した。
「そうだ、可奈子ちゃんこういうの好き?」
「いやあいつの趣味ってそんな可愛いもんじゃねーけど、このクマだったら喜ぶかもしんねーかな」
「じゃ、一つでも良いから持ってって。でもまだ残り沢山あるんだよなぁ」
「文化祭のバザー提供品にすれば良いだろう」
「さすが小野寺先輩」

 

2006.08.13 11:51

 結構遊び疲れたから、ってわけで俺達はそのまま帰ることになった。
 電車ん中でお互い何してたか話し合ったけど……やっぱ菱井達色んな奴乗ってきたみてぇで羨ましいかもしんない。
「あ、俺達駅着いたんで。先輩さよなら」
 俺ら兄弟と菱井は一緒の駅で降りるはずだったんだけど――。
「あ、あ、あ」
 菱井は小野寺先輩にしっかり腕捕まれて、そのまま電車内に取り残されてしまった。
「……強制的にお持ち帰り決定かよ」
「ご愁傷さま菱井君……北斗、帰ろうか」
「あ、なら駅前でメシ食ってからにしようぜ。俺無性にラーメン食いたい」
 南斗は笑って頷くと、帰り遅くなるって連絡を家に入れた。

 

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 一時は男二人でカルーセルに乗って貰おうかとも思いましたが、絵面が物凄くなるので止めました。さて「遅くなるから」と言うのは何時までを想定しているのやら。