【ホームビデオ編 その2】
2006.10.23 07:57
南斗が突然火が着いたように泣き出したのに気付いて、母さんも俺も追い掛けっこをやめた。
『なっちゃん、どうしたの?』
南斗はだっこしてあやそうとした母さんにではなく俺に飛び付き「おヨメさんになって」とプロポーズすると言う強攻手段に出たが、「スカートやだ」と言う俺の容赦ねぇ一言でバッサリ切り捨てられた。
母さんは終始ケラケラと笑っていたが、俺はいたたまれねぇ気持ちで一杯だった。多分南斗も同じだろう。
「あと十年もしたら、二人とも本当の彼女の家に『お嬢さんを僕にください』って言いに行くのかしらね」
――ごめん、母さん。今んとこその可能性はゼロに近いです。寧ろビデオのプロポーズに限りなく近い現状になっちまってます。
「そう言えば、中学生の時に北斗に一瞬いたぐらいで、二人とも全然彼女が出来ないわね」
「あ、か、母さんごちそうさま!」
2006.10.23 20:22
「何よ、そんなにあからさまに逃げなくても良いじゃない。もしかして内緒で付き合ってる子がいるの?」
うぇ、どうしよう。バレるわけにゃいかねぇけど、南斗の目の前で思いっ切り否定したら気ぃ悪くしそうだし。
「南斗はどうなの? 昔はよく郵便受けに手紙入っていたじゃない」
幸い母さんはすぐにターゲットを南斗に変えた。実際、南斗のが俺よか目に見えてモテるんだから、可能性を考えるならあいつのが高い。
――って俺自身を棚にあげて何考えてんだ。
2006.10.25 21:41
「――そのうち言うことになるかもね」
「え!?」
こいつ何血迷った事ってんだ!?
母さんは楽しみねぇ、なんて言ってたが、二本目のビデオのダビング準備が終わった頃に買い物に出掛けてった。
「南斗、お前何考えてんだよ。俺らの事一番知られちゃなんねぇのは親じゃねぇか」
「そうだよ、でも将来気付かれない可能性は全くのゼロじゃないんだ」
南斗の目は真剣だ。元々俺らの関係はリスクが高すぎる。両親と同居の現状では尚更で、いっそやめちまおうかと悩んで迷って、それでもお互い手放すなんて到底出来ねぇ恋だった。
「もしそうなったら俺は迷わず北斗を俺にください、って二人に言うよ。北斗がいないと生きる方向すら見失うぐらい好きなんだ、って」
「もしそれで反対されたら?」
「前も言ったじゃないか――何処までだって連れて逃げるよ」
それはある意味、あの日よりもずっと熱烈なプロポーズかもしんねぇ、って俺は思った。
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