【New Love 01】
2010.11.17〜2010.12.28 web拍手お礼SS
「何やってるのぅ、可奈ちゃん?」
山口が振り返ると、可奈子は生徒会室のドアに片耳をぴったりとくっつけていた。
「いやー、BL展開だと誤解が解けた後は『そういう事』が始まるかと……」
えへへ、と乾いた声で誤魔化し笑いをする可奈子のツインテールを山口は引っ張り、ドアから彼女を引き剥がした。
「自分のお兄さんの濡れ場を盗み聞きしてどうすんの。普通家族や親戚のそういうのってイヤじゃない?」
あたしだったら優ちゃんのなんて絶対ナマで聞きたくないわぁ、と山口は言った。
「でもこんな貴重な機会って滅多に――」
「はいはい。趣味で人様に迷惑かけちゃいけませんー」
酒谷が聞いたら「どの口で!?」と喚きそうな言葉である。そして山口は、可奈子の手を強引に掴むと第二校舎を出るべく歩き出した。可奈子は何度も後ろを振り返ったが、諦めて山口について行った。
「残念……」
「第一、昨日の今日では良介ちゃん身体がもたないだろうから、しないと思うわよぅ?」
「え、何ですかそれ!? 定番のお仕置きイベントとかですか!?」
目をぎらつかせて食いついてくる可奈子に、山口は大きく溜息を吐いた。これまた普段の彼女からは想像もできない表情で、南斗や酒谷が見たら仰天すること必至である。
「あくまでも噂からの推測だけどね? ――可奈ちゃん、あなたの萌えの原点があの二人なのは解ってるけど、相手は漫画やアニメの登場人物じゃないんだから、絶対に超えちゃいけない壁がある事は理解しなさい。いくら菱井家の人間で唯一優ちゃんの味方だからって、しちゃいけない事はしちゃいけないのよ」
「……ごめんなさい」
解ればよろしい、と山口は微笑んだ。
二人は校舎を出ると、そのまま校門を目指した。いかにも校外の人間と言った格好の可奈子の姿は目を引いたが、彼女を連れているのが生徒会副会長の山口と言う事もあり、ちらちら見られるだけでそれ以上の事は無かった。
「――郁姉。昔ね、お母さんによく言われてたんだ」
校門を出て暫く歩くと、可奈子が突然話し出した。
「あなた将来は優君のお嫁さんになりなさい、って。別に初恋だったわけじゃないけど、今でも憶えてるぐらいには意識してたのかも。それもこれも優兄の大告白で一気に吹っ飛んじゃったから、萌えの力って大きいね」
山口は何も、言わない。
「お母さんもまさか優兄がお兄ちゃんに走るとは思ってなかっただろうなぁ」
本気で私が婿探ししなきゃ、と可奈子は笑った。
(2010/11/17)
next/番外編/polestarsシリーズ/目次