【単発 その1】
2006.09.13 08:03
「良介。続きだ」
「ええー……もう勘弁して」
「何を言っている。お前は受験生だろうが」
無慈悲な優の言葉に、俺は問題集の上に突っ伏した。
「何かさー、俺より優のほうが気合入ってねー?」
「当たり前だ。お前には何としてでもこっちの大学に受かって貰わないと困る」
そうなのだ。
学年違いの宿命で優は大学生、俺はまだ高校生。しかも優は上京なんてしてしまって、今日も逢うのはめちゃめちゃ久しぶり。
いつもの強引さで第一志望は都内の大学を押し付けられたけど、失敗すりゃ離れ離れになる時間がどんどん加算するわけだからなー。それに、北斗達も都内狙ってるし。
結局、二年が終わる頃には北斗は完全に天宮南斗に追い付き、二人して同じ大学目指している。北斗の場合もともとデキが良かったのをサボってただけなんだから、当然っちゃ当然かな。
俺はデキが良くないので、夏休みの間こっちに戻ってきてる優に勉強見てもらってるというわけだ。
「優、終わった」
「貸してみろ」
優が、俺の解いた問題の採点をする。
「――今日は良く出来たな」
「マジ? 最近俺頭良くなってきたかも」
やっぱ優の教えかたかなー。ただし、こいつの言いたい事を脳内で補完できる俺や可奈、あと郁姉ぇじゃなきゃ理解出来ねーけど。ひょっとしたら天宮南斗や酒谷もいけそうかもだが、あいつらの場合そもそも必要がない。
「――介、良介」
「あ、ごめん。何?」
「今日ぶんの授業料、払ってもらうぞ」
「お前ってホント、強引な理由付け好きだなー」
カテキョの件抜きでもやる気のくせに。
今日から何泊連続で外泊つづくんだろーか。
2007.01.20 01:06
今一度鞄を開いて持ち物をチェックする。全て揃っている事を確認して、小野寺は玄関のドアを開けた。
そして目の前に思いがけない人の顔があるのを見て、彼にしては珍しく驚きの表情を作った。
だが、より驚いたのは相手の方だったようだ。
「うわー吃驚したー、危うく鼻が低くなるとこだったぜ」
「お前がか?」
ふん、と鼻で笑った小野寺の態度に、菱井はいつものように突っかかろうとしたが、開いた口を慌てて閉じ、表情を引き締めた。
「――あの、優これ……」
頬を紅潮させながら菱井が差し出したものを、小野寺は受け取った。
「良介」
「きょっ、今日本番だろ? お前が失敗するなんてちっとも思わねーけど、やっぱ頑張って欲しいってゆーか、俺に出来んのってこれぐらいしかねーから――」
普段滅多に発揮しない素直さを、菱井なりに精一杯振り絞っているのだろう。
「あぁ、これで解けば満点ぐらい取れるかもな」
そう言って小野寺は、負けん気の強い恋人を貰った合格鉛筆ごと抱きしめた。
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