自転車漕ぎながら俺は時々振り返り、南斗も自転車で追っかけてきてんのを確認する。
追いつかれるわけにゃいかねぇけど、見失ってもらっても困る。俺が目指してる場所が南斗にもはっきり判るまで、微妙に走行ペースを調整しながら俺は逃げた。
「――よし、ここまで来りゃ大丈夫だろ!」
自転車は緩やかな上りカーブに進入する。俺は立ち上がり、全体重と出せる限りの力を脚に込めてペダルを漕いだ。
俺らの通う、惣稜高校を目指して。
俺はびっちり閉まってる正門を通り過ぎ、裏門のほうに回った。
囲いがフェンスじゃなくて鉄柵になってるとこで、自転車を乗り捨てて封筒だけ拾う。
自転車が倒れるとき凄ぇ派手な音がしたけど、今それに構ってる余裕なんてねぇ。もしこれでどっかが壊れてたとしても、そんときゃそんときだ。
片手にデカイ封筒抱えてっから、鉄柵を乗り越えるのに手間取った。その間に南斗の自転車がすぐ近くまで追いついてくる。
間一髪で学校の敷地内に入れたけど、やっぱ手ぶらで両手が使える南斗の方が、あっさりと鉄柵を乗り越えた。
「待て北斗!」
「誰が待つかよ!」
いつ捕まえられてもおかしくねぇぐらい、互いの距離が縮まった。
光が少なく視界が暗くても、脚が、身体の方が学校内を覚えている。切れかけた体力を総動員させて、俺らは人気の無い学校内を走り回った。
裏門から続く石畳を走り、校舎と校舎の間を抜けて、障害物の無いだだっ広いグラウンドに出る。ついトラック沿いに走っちまうのは多分、長年の体育の授業で染み付いた癖なんだろう。
トラックを四分の三周ぐらいしたとこで、遂に南斗の手が俺のブレザーを掴んだ。俺は勢いで転びそうになるとこを踏ん張って、ついでに封筒は腹に抱き込んだ。
「北斗、その願書を返せ!」
南斗が俺の腕を掴み、強引に振り向かせようとする。
「渡さねぇよ絶対!」
俺も引っ張られてんのと反対方向に力入れて抵抗する。
焦れた南斗は俺の背中に被さるように抱きついてきて、脇から封筒に触ろうとした。
俺は南斗の腕ん中で何度も身体を大きく捻りながら向きを変えた。
「い、や――だっ!!」
「ぁぅっ!」
肩で南斗の胸を思い切り突く。入ったところがたまたま良かったのか、南斗は背中からグラウンドに倒れた。
南斗との間にやっと距離が出来た。
俺は願書の入った封筒を、上半身だけ起こした南斗の目の前で――。
「なっ、やめ――!」
中身の願書ごと、強引に引き裂いた。
真っ二つにしたぐらいじゃ全然足んねぇ。
カラダん中に溜まってた興奮に流されるまま、俺は願書を破き続けた。
prev/next/polestars/polestarsシリーズ/目次