「ただいまぁ」
玄関先に南斗の靴は無かった。もう外は暗いのに、俺のほうが先に帰ってきたらしい。
「母さん。南斗は?」
「どこかで勉強してから帰ってくるんですって」
「晩メシはどうするって?」
「家で食べるって言ってたから。北斗も南斗と一緒でいい?」
別にいいよ、って言いながら俺は心ん中でガッツポーズを取った。
マジで良いタイミングだ。最悪の場合、鍵あけて侵入したうえあいつと乱闘する覚悟だったからな――いや、それじゃ目的達成どころじゃねぇのか。
俺は二階に上がってまず、南斗の部屋に入った。
俺らは自分が部屋の中にいないときは鍵はかけない。外からかける鍵は全部母さんが持ってるはずだけど、どっかいっちまってるらしいし、学校行ってる間に部屋ん中は掃除機かけられてっからな。
まぁ、だからクリスマスイブの時は南斗が俺の部屋で待ち伏せできたし、たった今俺がここに入れてるってことだ。
「――流石に机の上に放置、ってこたぁねぇよな」
机の引き出しを一つ一つ開けてみたけど、そこにも俺の目的のブツは無かった。
「やべぇな、下手に時間かかると南斗が帰ってくるかもしんねぇし」
あと、あいつがアレをしまっときそうなのって何処だろう。
その時、視界に例の本棚が入った。ピンと来た俺はスライドのロックを外して裏の棚を確認する。
「あった……!」
俺は見つけたソレを引っ掴むと、わざと本棚をそのまんまにして部屋を出た。
南斗が家に帰ってくるまでの間、俺は自分の部屋で息を潜めて待機していた。
階段を上がってくる足音が、やがて部屋に消えるのを確認してから、例のブツを持って廊下に出る。
閉められたドアの向こう側から、いつもの南斗だったら絶対にさせない激しい物音がした。
――よし、上手くいってんな。
俺は階段ぎりぎりのところまで後退する。
やがて、血相変えた南斗が部屋から飛び出してきた。
「南斗。お前が探してんのって、これだろ?」
俺は手に持っていた――樫ヶ谷学院の校章がプリントされた、願書入りの封筒を見せ付けるように振った。
「かっ、返せ!」
「やだね!」
俺は反転して階段を駆け下りる。最後の数段ぶんは一気に飛び降りたから、着地時に物凄い音がした。
「ちょっと、何やってるの!?」
「ごめん母さん!」
久々に出しといたローファーを引っ掛けて外に出た。ドアを後ろ手で思い切り叩きつけるように押し、南斗の進路を妨害する。
そして、これも事前に用意してた自転車に飛び乗って、俺はペダルを全速力で漕ぎ出した。
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