今までの行動パターンから考えて、夜中に南斗の部屋に行っても絶対に反応ねぇだろうし、翌朝も俺が起きる頃にはあいつはとっくにいねぇだろう、っつぅ事は解っていた。
ホントはすぐにでも追いかけたい。けど何も考えずにいきなり行動しても空回りするだけだ。
とりあえず今夜は、冷静にならなきゃなんねぇ。
「北斗。大丈夫……?」
朝起きて一階に下りると、母さんが心配そうに声を掛けてきた。昨日俺がキレたのを見てるからだろう。
「うん、平気」
「南斗はまた、生徒会の用事があるから、って。北斗も寂しいわよね、南斗が突然別の高校に行きたいって言い出すなんて」
「――行かせねぇよ」
母さんは一瞬不思議そうな顔したけど、俺の呟きは聴こえてねぇみたいだった。
「菱井。放課後、話聞いてもらっていいか?」
下駄箱に靴を放り込みながら俺は菱井に訊いた。
「いいけど、何で昼休みとかじゃなくて?」
「――例の件」
ああ、と菱井は頷く。
「やっぱり、もう一回ぐらいは話があるって思ってたよ」
放課後の教室から誰もいなくなったのを確認してから、俺は菱井に「腹くくった」と宣言した。
「今まで自分で解ってなかったけど――俺、やっぱ前から南斗が好きだったみてぇ」
「どうして今頃気付いたんだ?」
俺は南斗が樫ヶ谷に編入したい、って言い出した事を話した。
「だから職員室に何度も呼び出されてたってわけか。学校としても天宮南斗みてーな人材、他校に出したくねーだろうしな」
「あいつ、俺とはもう一緒にいられねぇって言って――そん時やっと解った。俺、南斗が側にいないと嫌だ。何しても、どんな手使ってでも引き止める。俺が今、行動しねぇと駄目なんだ」
「どんな手でも、って」
俺は自分自身を指差した。
「あいつのためなら何でもする、って覚悟、やっと出来た」
「そっか、覚悟、か……」
俺らは机に頬杖付いたまま、暫く黙った。
「なぁ、北斗。今更だけど言っていい?」
「何」
「俺から見た感想だけど、お前の思考ってさ――入学式の時からずっと、常に天宮南斗中心に回ってたよ」
「何で菱井って、俺の事なんでも知ってんの?」
菱井は企業秘密だ、って笑った。
とにかく南斗をとっ捕まえて、話をしねぇと始まんねぇ。俺らはその作戦について話し合った。
「両親いるんだったら、お前の家ん中で出来る話じゃねーもんなぁ」
「どうしても外に連れ出さねぇと無理か……」
あぁでもねぇこうでもねぇ、って悩んで、やっと俺一人でも何とか出来そうな案が出た。
「――じゃあ、これから協力要請、行って来る。お前は先に帰ってて良いよ」
「え。そんなにかかんの?」
「ついでに下調べしてぇ事、あるんだよ」
南斗を向こうにまわすんだから、こっちの手持ちのカードは一枚でも多いほうが良い。
「わかった。じゃあしっかり王子様を捕まえてくんだぞ、お姫様」
「男に向かって気色悪ぃこと抜かすなボケ!」
「痛っ!!」
そういや前に似たようなやり取り、菱井としたのを俺は思い出した。
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