INTEGRAL INFINITY : polestars

 一緒にいられない――それを南斗に直接言われたショックがあまりにでかくて、俺は何も言えなくなった。
 沈黙を同意と受け止めたらしい南斗は、俺の頭からそっと手を離した。部屋から出ていく南斗の後ろ姿があの夜と、重なる。

「う、そ……嘘、だろ」

 あの時も南斗は出てったまま休み中帰ってこなくて、けど、三学期になるまでにはちゃんとこの家に戻ってくるのが最初から判ってたから我慢出来た。
 今回は違う。樫ヶ谷に行っちまったらもう、南斗は帰ってこない気がする。俺との接触を徹底的に避けて、大学もきっと凄ぇ遠いとこを受ける。
 大袈裟かもしんねぇけど、一生逢えなくなるんじゃあ、って思ったら目の前が真っ暗になった。

 南斗が俺の前からいなくなる。他人よりも遠くなる。
 嫌だ。そんなのは絶対嫌だ。俺にゃ絶対認めらんねぇ。
 小学校の頃まで戻れたら、兄弟だったらもう離れなくてもいい、って思ったのに。

――「兄弟だったら」?
 俺、いつからそんなこと考えてた?

 唐突に、全部理解した。

「何だよ……そういう事だったのかよ、俺……」

 俺の気持ちも、とっくの昔に兄弟の枠なんか超えてたんだ。
 南斗が俺を諦めたって思ってたから、それでも離れたくなくて無理矢理自分を誤魔化してた。

 学校での南斗に興味を持たねぇようにしてたのは、南斗の周囲の人間に嫉妬してたから。
 南斗と比べられんのが嫌だったのは、双子でも俺と南斗は違う人間だ、って思い知らされるから。
 菱井のオッズ表にむかついたのも、後夜祭で南斗にマジで本命がいるって知ってショックだったのも、南斗が自分以外の誰かを見てるなんて思いたくなかったから。
 何もされてねぇのに酒谷が嫌いだったのは、あいつが一番南斗と仲良かったから。

 北極星が特別だったのは――指針の意味を持つあの星に俺自身を重ねてたから。

 俺から追いかけるよりも、南斗にずっと俺を追いかけて欲しいって思ってた。
 自分の世界にこだわったのも、ひょっとしたらその延長かもしんねぇな。
 俺ってもしかしなくても我侭すぎ? っつぅかガキ? 小学時代から進歩無し?
 マジで俺、情けねぇったらねぇな……。

 さっきまで南斗の手が触れてた、耳のあたりを俺は自分の掌で覆ってみた。
 肌の重なったところが熱い。確かめるようにゆっくり、手を滑らせてみる。
 自分の中に答えはちゃんとあったのに、あの夜以降見ないふりして迷った原因は、多分この辺の事に対する躊躇いだ。
 それでも、もう迷ってなんかいらんねぇ。
 今度こそ南斗を逃がさねぇようにすんには、俺からあいつを追いかけて、一発張り倒すぐらいしなきゃなんねぇんだ。

 

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 このような視点で読み返すと印象の変わるシーンが結構あるかと思います。物語の構想当初に北斗の想いに関するブレーンストーミングを行いましたが、あまりに素直でない思考回路ゆえ、以降北斗視点を腸捻転思考と呼ぶようになりました。