INTEGRAL INFINITY : polestars

 樫ヶ谷?

 編入?

「急にまた、何で――南斗、高校受験の時あんなに嫌がっていたじゃない」
「惣稜に一年近く通って、やっぱりもっと上、目指したくなったんだ」
「しかし……今更編入なんて可能なのか?」
「それについては調べた。入試と同時に編入試験を受け付けてる、って。難易度は相当高いらしいけど、俺なら多分、大丈夫だと思う」

 南斗と両親の会話は耳に入ってくるけど、視覚が全然働いちゃいない。周囲の全ての輪郭がぼやけて、まるで幻覚の中で酔ってるみてぇな気分だ。

「学校の先生方にも相談して、一応納得はしてもらった」
「普通、そういう事は親に先に言うもんじゃないのか」
「編入したいって思ったのは今年に入ってからだから。とにかく色々判るまでは、父さん達を心配させたくなかったんだ」
「北斗は知ってるの?」

「編入試験に合格するまでは言わないつもり――」
「何だよ、それっ!!」

 我に返った俺は、中に突入して南斗の肩を掴んだ。
「北斗!? ちょっと落ち着きなさい」
「んなもん無理に決まってんだろ!」
「――北斗」
 南斗の手が俺の腕を掴んだ。
「ここには、父さんたちがいる」
 静かな、声だった。
「父さんと母さんには言いたいこと全部言ったから。俺、上で北斗と話してきていい?」
 南斗はそのまま立ち上がり、俺を引っ張って二階に上がった。

 俺の部屋に入ったあと、南斗がドアを閉める。
「樫ヶ谷に編入――って、お前この家出るつもりなのか!?」
 樫ヶ谷学院は全寮制だ。もし南斗が合格すれば、必然的に寮生活になる。
 南斗の学力で不合格、っつぅのは俺にゃ考えらんねぇ。
「入寮は三月になるだろうから、もうちょっとだけ我慢して」
「――我慢、って何?」
「だって、誤解であんなことをした奴とずっと同じ家で暮らさなきゃならないのが、北斗には耐えられないんだろう?」
「ち、違」

 俺はそんな事、一言だって言っちゃいねぇ。
 俺が辛かったのは、南斗のほうから避けられてたって事だけだ。

「だって兄弟なんだから、そこは仕方ねぇだろ――」

 いきなり、両側から頭を捕まれた。耳のあたりに手ぇ、差し込まれるようにして。

「俺は! 俺はもう……無理なんだ」
 至近距離、震える囁き声で南斗は言った。
「本当は、耐えられないのは俺の方だよ。もうこれ以上、北斗とは一緒にいられない」
 南斗の両手に力が入る。最後の数センチの距離は、それ以上縮まらなかった。

 

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 何げに南斗本人も落ちると思っていませんね、なんて。編入試験の内容の傾向や必要な学力レベルは事前に調べてから決めてると思うのですが。