下一桁からして当然と言うか、301号室は角部屋だった。メインの階段から一番離れているのは少し面倒かも知れない。
ドアの横には真新しい表札が二枚かかっている。一枚はもちろん僕の名前。そしてもう一枚には「本城空羽」と書かれていた。
ホンジョウ……ソラハネ? 流石にそれはないだろうけど、何て読むんだろう。クウウ? ソラウ?
寮の部屋は二人部屋で、在学中はずっと変わらない。つまり今日から三年間、名前の読みはわからないが本城という人と寝起きを共にする事になる。果たして、上手くやっていけるだろうか。本城君が「彼」のような人だと一番良いんだけど。
彼――仮に「A君」としておこう――は、中学時代のクラスメイトだった。
そして無彩色の日々の中で唯一、色を持った思い出だ。
卒業式からまだ日が浅いのに、もうこんなにも懐かしい。
とにかく、入寮者説明会まで時間がない。でも、ここまで来たんだから、あの灰色の人に言われたとおり荷物を置こう。
ドアノブを回すと鍵がかかっていた。本城君はまだ中にいるんだろうか。
僕はドアを軽くノックした。
「――すいません、部屋を間違えました」
開かれたドアを押し戻す。
しかし閉まる直前に反対側から抵抗され、再度ドアは全開になった。
「いや、多分間違いじゃないと思うけど。あんたが三星参だったらね」
「あ、はい、確かに僕は三星です」
間違いではなかったらしい。
でも、まさかこんな美少年が自分の同室者だとは、にわかに信じられなくても当然だろう。
彼はまるで人形みたいに可愛らしくて、けれど現実感を感じられないぐらい整った顔をしている。肌の色が日本人離れして白いし。明るい色の髪の毛も地毛なんだろうか。目の色からしても、生まれつき色素が薄いのかもしれない。
と言うか、これで僕と同じ人間なんだろうか。
「ええと、本城……」
「アキハ」
あの名前、アキハって読むのか。
「変わった読み方するんですね」
「三星こそ。降参の参を『シン』だなんて普通、読ませない。僕のほうがまだ正解率高いと思うけど」
確かに、初対面の人から正しく呼ばれた事など殆ど無い。本城君は多分部屋割りか何かで知ったのだろう。
本城君は僕を頭のてっぺんからつま先まで念入りに観察しているようだった。
「――なるほど、そういう人選ってわけか。確かに三星なら間違いはなさそうだな」
「?」
「いや、何でもない。そろそろ入寮者説明会行かないとまずい」
自分でも腕時計を確認してみると、15時まであと5分を切っていた。他の部屋からも次々に人が出てきている。
「あ、荷物だけ」
「ここに置いておけば?」
言われたとおりに部屋に入ってすぐのところに手荷物を置くと、出てきた本城君がドアを閉め施錠した。
「部屋を空けるときは鍵を絶対に忘れるなよ」
彼は僕にそう何度も念押しした。樫ヶ谷の寮はそんなに治安が悪いんだろうか。
――何だか不安になってきた。
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