――A君、樫ヶ谷は全寮制なので、当然校舎と寮には食堂があります。食費は学費に含まれています。A君の学校に食堂はありますか?
白樫寮の食堂は、大ラウンジや各個室と同じようにすっきりと上品な感じの造りだった。
「……けど、料理は家庭的って感じなんだね」
「夜は毎日日替わりでA定とB定、朝は全員同じ奴が出るよ。部活や委員会で帰寮が遅くなるんだったら、連絡入れとけば弁当にして寮監とこに預けてくれるんだ。その場合どっちの定食かは選べないし、味噌汁は付かないけどさ」
「ふーん」
黒川君の説明を聞きながら、僕はA定食のおかずの唐揚げを口に入れた。向かいの黒川君は僕と同じものを食べている。
「一応食費も前払いされてる事になるからな、出来る限り損をさせないようにしてるんだろ」
黒川君の隣に座る本城君は、B定食の塩鮭を食べながら言った。
僕達は窓際の席に三人で座っているのだが、他の生徒達は少し離れたところからちらちらとこちらを見るだけで、話しかけてくるはおろか近寄って来さえしない。
多分、それは本城君に由来するんだろうなと僕は推測していた。
彼とは初対面からまだ数時間しか経っていないけれど、無言でいる時の表情や雰囲気がこう、とても近寄りがたいのだと判った。中等部時代に同室者だったと言う(本人が先程教えてくれた)黒川君や現在の同室者である僕にはかなり親切に接してくれているけど、そのような接点の無い人間にとっては自分から話し掛けるなんて畏れ多くて出来ないに違いない。
それにしても、本城君と塩鮭は実にアンバランスな組み合わせだ。もしかしたらこの物珍しさも視線を集めてしまう要因の一つなんだろうか。
「そう言えば、山形君はまだ資料室?」
「あー、うん、そうなんじゃない? 僕がサム達を呼びに出るまで帰ってこなかったし。こりゃおばちゃんに言って弁当詰めて貰わなきゃな――って! これから三年あいつのメシの面倒見なきゃなんないの!?」
サイアク、と黒川君は大袈裟なまでの仕草で嘆きを表現した。
「山形相手なら、放っておいてもその役肩代わりしたがる奴は幾らでも現れるだろ」
「……本城お前、自分も同じ立場でしょーが」
「僕に付くのはそう言うのとは逆のタイプだろ。そもそも迷惑だけど」
……二人の会話はよく解らない。この学校に慣れたら解るようになるのだろうか。
「本城君。ここ良いですか?」
三人きりの食事だろうと思っていたところに、突然見知らぬ人が本城君に話し掛けてきたため僕は驚いた。
「あ! 青村先輩だ!」
「良いですよ。三星の隣空いてるんで」
「三星君」
「僕の同室者です、外部生の」
「そうですか。それでは失礼します」
――A君。もう飽きたかも知れませんが、食堂で僕の隣に座った人は、優しげで和風な感じが漂う美形の先輩でした。
「初めまして三星君。私は三年の青村と申します。同じ学舎に居るのは一年ですが、よろしくお願いしますね」
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