自己紹介をすると青村先輩は、スッと真顔になって僕の目をじっと見つめた。
――何だろう、この怖い感じは。
「あはっ、青村先輩ってばいきなりー。サム怯えてますよー?」
何故か楽しそうな黒川君の声に、先輩の表情が再び柔らかくなった。
「本城君とお近づきになる人であれば、チェックしないわけにはいきませんからね」
「で、サムは合格?」
「ええ」
青村先輩はもう一度僕を見るとにっこりと、笑った。
「三星君、気難しいところもありますが本城君を三年間よろしくお願いします」
「は、はぁ……」
斜向かいで本城君が「ちょっ、気難しいって何だ!?」と抗議の声を上げたが、青村先輩は取り合わなかった。
「何か困ったことがありましたら遠慮なく私に言って下さいね。これでも生徒会副会長を務めておりますので、お役に立てるかと思います」
この人は副会長だったのか。なら、確かに高校生活を送る上で非常に頼りになるに違いない。
「今ここで言うのは逆効果だろ……」
本城君が何故か溜息を吐く。考えてみると、生徒全員の規範たるべき生徒会役員が特定の生徒を贔屓しているのが目立つのは好ましくないのかもしれない。けれど、青村先輩は元々本城君と黒川君と仲が良いから僕にそう言ってくれただけだ。ちゃんと説明すれば解ってもらえるだろう。
「では、いただきます」
青村先輩が食べ始めたのは、本城君と同じB定食だった。先輩は和風の雰囲気なので塩鮭にも違和感がない――って、何を考えているんだろう、僕は。
「君達も明日から高校生なんですね。時間が経つのは早い」
「山形の真似じゃないけど入学式面倒ですよ」
また、本城君が溜息を吐く。
「そう言えば、貴方には花詔(かしょう)がありましたか」
「先輩、本城を『小鳥』に出来なくて残念でしたねぇ?」
黒川君は妙に芝居がかった声で、青村先輩に言った。
「花詔を出すのは『花王(かおう)』、その前に吟味するのは生徒会ですよ、黒川君。私自身が本城君を選んだも同然です。それに――花が後から小鳥に変わった事例もありますし」
――相変わらず僕一人だけ全く会話について行けないのだが、本城君の機嫌がどんどん降下していっているのだけは解った。
「……二人とも、僕の前でその話はやめろ」
「大変失礼致しました」
「即座に謝罪した青村先輩とは対照的に、黒川君はつまらなそうに唇を尖らせる。
「けど実際、青村先輩は『小鳥』どうすんの? 先輩が『小鳥』を飼わないのは本城を待つ為だって噂が流れてたの、知らないわけじゃないでしょ?」
噂は噂です、と言って青村先輩は味噌汁を啜った。
「普通そう言う事を当事者の目の前で訊くか……?」
本城君は不機嫌を通り越して、再び呆れたようだった。
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