INTEGRAL INFINITY : extrastars

【anotherstars - the Transfer 02】

「酷いなぁ、酒谷って俺の事そう思ってたんだ」
「馬鹿を馬鹿と言って何が悪いんだよ」
 和地はとにかく圧倒されてしまい、本題とは関係の無い事を二人に尋ねる。
「あのー、生徒会って事は南斗も関係者?」
「関係者も何も、ミナミヤがうちの現生徒会長だよ」
「えーっ、南斗がか!?」
 そんなキャラじゃなかったのに、と和地は感嘆した。
「甘ったれで北斗がいなきゃ何もしたがらなかったオマエが、ねぇ」
「とにかく、こんなのでもちゃんと勤め上げてもらわなきゃならないし、イメージ戦略の為にも和地に喋られたら困るんだよ」
 その時、生徒会室のドアががたがたと鳴り、「鍵かかってるよ?」等という会話が聞こえてきた。
「酒谷。湯島と根岸が来たんじゃないの?」
「あぁ、もうそんな時間なのか」
「仕事? ならオレ、帰ったほうが良いよな」
「ごめん、わっちゃん。今度またゆっくり話そう」
 申し訳なさそうに謝る南斗に「ああ」と返し、和地は施錠を解除してドアを開けた。外に立っていた男女の生徒は、中から出てきた大男に驚いたようだったが、特には何も言わなかった。

 和地が第二校舎を出ると、グラウンドのほうから賑やかな声が聞こえてきた。運動部は今日からもう、活動しているのだろう。
 その長身から容易に想像できる通り、和地は小学生の頃からずっとバスケットボールをやっている。出来る事ならこちらでも続けたいと考えていたので、帰宅するのを取りやめて部活見学でもしよう、と思い立った。
 酒谷に教えられた体育館を目指そうとしていた和地に、二人組の男子生徒達が気付く。その片方が、もう一人の制止を振り切って和地に向かって駆け寄った。途中でよろけ、結果和地に抱きつくかたちとなる。

「わっちゃん!!」

 和地にとって、本日二度目の驚きだ。ついさっきまで見ていたのと全く同じ懐かしい顔がそこにあった。ただし、髪は染めていて左耳に何か着けている。
「オマエ――北斗か?」
「やべぇ、マジでわっちゃんだ! 凄ぇ久しぶり、元気だった?」
「ああ、元気元気! まさかオマエにまで今日遇えるなんてなー。俺、今日この学校に転入してきたんだよ」
「マジ!? どのクラス?」
 南斗の双子の兄、天宮北斗は小学生の頃と変わらぬキラキラした目で和地を見上げ、抱きつく腕に力を込めた。
「おーい、北斗ー。公衆の面前でラブシーンはかなりやべーんじゃねーの?」
 いつの間にかもう一人の生徒も和地達に接近していた。何故か気の毒そうな表情を浮かべて和地を見る。
「あっ菱井! あのな、こいつ幼馴染みなんだよ。お前にとっての小野寺先輩みてぇなもん。うちの学校に入ったんだって」
「いや、それ厳密に言うとあいつの不要な怒りを招くぞ……。とにかく、あんたが五組のデカイ転入生?」
「あら、オレってもう噂になってんだ? そう、和地一弥ね」
「俺は菱井。こいつと同じ二組」
 そういえば南斗のクラスを訊いていなかったな、と和地は思う。
「五組って酒谷のクラスじゃん」
「その酒谷サマに校内案内してもらって、あと南斗にも遇ったぞ。アイツ何組?」
 和地が訊くと、何故か北斗と菱井は困ったように顔を見合わせる。
「四組、だけど。わっちゃんの隣だな」
「へぇー。アイツ生徒会長なんだろ? 凄いな」
「和地。俺達これから俺んちで遊ぶんだけど、お前も来る?」
 初対面だと言うのに突然そんな提案をした菱井を、和地は不思議に思いながらも、バスケ部見学に行くつもりだと正直に答えた。
「そっかー、じゃー仕方ねーな、北斗」
「ん……」
 二人は見学についていくとも言わずに、大人しく引き下がった。
「じゃあ、また今度誘うからな。これからはいっぱい遊ぼうな」
「ん、そんときゃよろしく――ところで北斗、オレ抱きしめられたまま?」
 北斗は顔を真っ赤にして和地から離れたが、またよろめいて今度は菱井に支えられる羽目になった。

 翌日、登校した和地が見たものは昨日にまして不機嫌そうな酒谷とクラスメイト達の好奇の目だった。
「おはよ酒谷サマ……この状況って何だかわかる?」
「ミナミヤもキタミヤも、関係する噂は広がるのが早いんだ」
「あ、やっぱ北斗だとそういう呼び方になるんだな」
 和地の口から「北斗」という単語が飛び出すなり、クラス内がどよめく。
「まぁ、仕方ないけど昨日釘を刺しといた件についてはくれぐれも気をつけてよ」
 大人しく頷いて、和地が自分の席に着くと隣の席の小宮が話しかけてきた。
「なぁなぁ、和地。天宮会長と二組の天宮に二股かけた、ってマジ?」
「……は?」
「昨日の放課後、部活に出てた奴らが目撃したって騒いでたぞ。お前、学食から天宮会長に手を引っ張られてどっかに連れて行かれたあと、今度は二組の天宮に抱きつかれたそうじゃん」
 確かに、小宮が言っている事は全然間違っていない。だが、それがどうして二股という表現になるのか。
「なぁ小宮、だっけ? あいつらってこの学校でどーゆー風に思われてんの?」
「あの二人ってあんま仲良くないので有名だよ。学年トップで生徒会役員、って有名人の弟に、去年の二学期の期末で兄がライバル宣言。その前に学年中を巻き込んだ大喧嘩してたし、三学期の最初も揉めてたらしいしな。今まで目立たなかった兄の成績が急に伸びたのは会長に対抗してるから、ってもっぱらの評判だぞ」
 にわかには信じられない話に、和地は目を丸くした。
「つ、ついでに会長ってこの学校じゃどんなイメージ?」
「さっきも言ったけどすげぇ成績良くてテストじゃいつも一番で、しかも性格良くて優しくて誰に対しても笑顔だから、女子からは王子様って言われてるよ。でも唯一の例外が兄関連だな。校内じゃ会話してるとこなんて殆ど見た事無いし、兄派筆頭の菱井にだけは態度冷たいらしいし」
 聞けば聞くほど、和地が憶えている双子とのギャップが激しくなる。特に南斗は、暇が無くとも北斗と一緒にいたがる筋金入りのブラコンとして仲間内では知られていたのだ。
「だから転校初日から両方に急接近した和地は驚きなんだよ。特に兄は昔、菱井以外にゃ懐かないって事で有名だったし」
「急接近、って言われても、両方とも普通に幼馴染みだしなぁ。オレ片方だけ選ぶつもりないよ」
 そう言いながらも和地は、昨日見た北斗の困った顔を思い出していた。

 

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 ブラコンでぐぐってみると関連検索が凄いことに……ブラック・コンテンポラリーも「ブラコン」ですよ。