INTEGRAL INFINITY : extrastars

【anotherstars - the Transfer 03】

 この日は土曜日で、授業は午前中で終わる。転入生の和地は色々と誘いを受けたが、それは日曜日にしてもらった。
 五組を出た和地が向かったのは、二組の教室だ。
「すんませーん」
 天宮北斗いますか、と尋ねる前に、北斗の方から気付いて入り口まで近づいてきた。
「わっちゃん! 来てくれたん?」
「ああ。今日こそ遊ぼうぜ」
 後から寄ってきた菱井も、昨日の礼という形で誘う。彼ら以外の生徒は、あの噂が気になっているのか、五組と同様に興味津々の様子だった。

「何する? 昼も何処で食おっか」
 北斗はにこにこと機嫌が良さそうだ。
「まー歓迎って事で、和地の希望優先な」
 菱井に言われ、和地は他人の邪魔が入りにくそうなカラオケボックスを提案した。
「じゃあ久保田のバイト先行くか」
「久保田?」
 一年の時のダチだよ、と言われ和地は少々不安に感じたが、今日のシフトは遅いはずだと菱井が先んじて言った。
「久保っちはバスケ部員だから、和地的には会えたら良かったんだろーけどね」
「いやいや、仕事の邪魔して引き留めるのはまずいでしょ。けどそいつ、部活とバイト両立って根性あるな」
「その分成績わりーけどな」
「なのにカノジョはいるんだよな」
「バスケ部のマネージャーだっけ?」
 先越されたな和地、と菱井は笑った。

「あのさ、訊きたいんだけど」
 カラオケボックスの個室で、和地は切り出した。
「北斗……オマエ今、南斗の事嫌ってるのか?」
 フードメニューを持ったまま北斗は固まり、菱井は「あー、やっぱり」と苦笑した。
「今朝学校来たら早速和地の噂広がってんだもんなー。昔の北斗達を知ってるあんたにとっちゃ、わけわかんなかっただろ?」
「ああ、北斗たちは仲悪い事になってるし、アンタも南斗と対立してるって言われたし」
「わっちゃん。そういう話聞いてるんなら、何で俺? 酒谷のクラスだし、立場悪くなんじゃねぇの?」
「いやー、昨日南斗にオマエ相変わらずブラコンなのか、って訊こうとしたら、酒谷サマにアイツが馬鹿でブラコンな事は絶対言いふらすな、って凄い剣幕で口止めされちゃってさ。南斗が昔と変わってないんだとすると、噂の理由は北斗にあるのかな、と」
「なるほど、鋭い」
「オレにとっちゃ北斗も南斗も大事な幼馴染みだからさ、噂が本当だとすると悲しいわけですよ」
 和地が真顔でそう言うと、北斗はおろおろと慌てだした。
「ど、どうしよ。俺、話すべき?」
 暗い個室内でなければ、北斗の顔が真っ赤である事に和地も気付いただろう。
「こんなに北斗達の事心配してくれてんだからさ、お前にとっても和地は特別なダチなんだろ? 俺は言っとくべきだと思うけどね。ただ核心は俺達だけの独断じゃ話せねーから、向こうにお伺いたてとけよ」
「判った、メールする」
 北斗は制服のポケットから携帯を引きずり出すと、メールの作成を始めた。

「で、和地はどこまで噂聞いた?」
「え、菱井が話すの?」
「北斗じゃ多分、この話は途中放棄するかもしんねーから」
「えっと、オレが知ってるのは北斗のライバル宣言と、二人が学年中巻き込んで喧嘩したって程度だな。あと学校じゃ全然会話しないのと、南斗に対抗するために北斗が成績上げた、って事ぐらい」
「ライバル宣言? あー期末のあれか。特に北斗が言ったわけじゃねーんだけどな」
 他は全て実際にあった事なのだ、と菱井に言われ、和地は驚いた。
「北斗、去年は天宮南斗と関わりたくねーって公言してたからな。最初の自己紹介のあれ、元一年一組の間じゃ伝説だよ」
「だってマジであん時ゃ凄ぇ嫌だったし……」
「北斗、ホントに?」
「中学ん時って天宮南斗ばっか目立ったせいで、北斗は灰色の三年間送ったらしーんだよ」
「南斗だけ急に成績とか上がって、親も学校の連中もみんなあいつの事ばっかで……俺だけあいつに置いてかれたみてぇで、凄ぇ嫌だった――あ、メール返って来た!」
 メールを確認する北斗を見ながら、和地は自分の知らない間に双子の間に出来た溝の事を思った。あの南斗が北斗を放って中学生活を謳歌していたのなら、それはかなりの異常事態だ。南斗ほど表に出さなかったとは言え、北斗にとっても双子の弟は一番大切な存在だったのだから、大きすぎるショックから南斗を遠ざけるようになったのかもしれない。
「嘘っ! ひ、菱井、あいつあっさり『全部いいよ』って!」
 どうやらメールの内容は北斗にとって予想外のものだったらしい。更に慌てる北斗を菱井がなだめた。
「なんか許可出たから、こっから本題な。和地、小学生の頃の天宮南斗ってどうだった? 嫉妬深くなかった?」
「そりゃあもう凄かったぞ。仲良し連中と遊んでる時だって、北斗が他に目をやったら機嫌悪そうだったからな。そういう奴だってみんな解ってたから生暖かく見守ってたし、北斗と南斗は二人で一人扱いだった」
「あー……やっぱりな。さて問題です。俺、菱井良介は天宮南斗から毛虫かゴキブリぐれーのレベルで嫌われてます。何故でしょう?」
 そう言って菱井はスイッチの入っていないマイクを和地に向けた。
「菱井が、北斗と仲良いから……?」
「ピンポーン! 簡単だったろ?」
「マジで南斗のあれは勘弁して欲しいよ、菱井なんも悪ぃ事してねぇのに」
 北斗がぼやいたが、和地にはそれこそが南斗にとって最高に「悪ぃ事」なのだと理解していた――今も昔と変わらずに。

「天宮南斗のあの独占欲の強さが斜め上方向に向いちまった結果、あいつ北斗に誰も近寄んねーように自分に人気を集中させる手段に出たんだよ。それが今うちの高校に蔓延してる天宮南斗のイメージな」
「うわっ! でも南斗だと思うと納得できる」
「あいつ生徒会長としてはその外面で売ってるからな。だから酒谷はわっちゃんに口止めしたんじゃね?」
 女子達の憧れる王子様像が、実は「どうしようもないブラコン」によって形成されたのだとすれば、それが発覚するのは非常にまずい。和地はようやく、酒谷の必死さに対して合点がいった。

 

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 和地含め、小学メンバーは頭の回転早い人ばかりです。後半、「doublestars」のダイジェストみたいになりました……。