【anotherstars - Eclipse the Pleiades 02】
同じ学年どうしだからか、僕と天宮はセットで生徒会関係の仕事を任される事が多かった。小野寺先輩が見込んだとおり天宮は凄く優秀で、それらを次々にこなしていった。もちろん、僕だって全力で貢献したつもりだ。
構成員と顧問がほぼ重なるため、生徒会活動の後に天文部の活動に入る事も多かった。小野寺先輩はそれを見越してまだ新任の幸崎先生を生徒会に引っ張り込んだのだろう。先生は地学教師だった。
先輩達は本当に名義貸しだけのつもりで殆ど顔を出さなかったが、僕は時間が許す限り参加した。地学準備室でほこりを被っていた天体望遠鏡を屋上に持ち出して、様々な天体を見るのは結構楽しかった。それに天宮と一緒にいられる時間が長くなる。
夏休みの合宿の時点までに、僕は自分が天宮の事をかなり特別視しているという事実を認めざるを得なくなっていた。
だって天宮は問題を僕に丸投げするなんて事はしない。逆に僕が困っていると頼む前に手を差し伸べてくれる。二人で煮詰まったときは励ましてくれた。
これで僕と同い年の男なんだろうか、と何度かは疑ったぐらいだ。でも固いばかりじゃなくて、部活中には些細な馬鹿話もたくさんした。
そして天宮は、いつでもあの魅力的な笑顔を向けてくれるのだ。
しかし、それは僕にだけではない。彼の態度は誰に対しても変わらなかった。だからこその人気なんだと頭では理解していても少し寂しい。
それでも、特別な誰かを作らない天宮にとって一番身近な友人は自分なのだ、という自負が僕にはあった。生徒会や部活で一緒だし、週に数回は昼食も一緒に食べる。放課後や休みの日に遊ぶ事だってそれなりに多いのだ。
揺らぎ始めたのはいつごろからだったのだろう。
二学期にある文化祭に向け、僕達生徒会役員は夏休みのうちから準備を開始していた。とは言えやはり休暇期間なので、登校時間はいつもより遅かったし、ばらつきがあった。大抵の場合一番早く来るのは天宮だった。
ある日、僕は予定より早い時間に登校した。もしかしたらもう天宮が来ているかもしれない。僕は密かに期待していた。
学食の建物の前を通りがかった時、窓際の角の席に座っている天宮が見えた。行き過ぎるのを引き返しガラス越しに天宮の横顔を窺う。
僕は、にわかには信じられないものを見た。
普段の天宮からは全く想像がつかないぐらい、冷たく感情の無い表情。
窓ガラスを叩こうと思っていた手は動きを止める事が出来ず、掌が勢い良くガラスに当たった。その音でこちらに気づいた天宮は僕のほうに顔を向けながら笑顔を作った――そう、僕にはまさしく「作った」ように見えたのだ。
「酒谷、今日は早いね」
やがて食堂から出てきた天宮はやはり笑顔のままだった。だが僕は内心で空恐ろしさと戦っていた。
もしかしたら、僕が、いや天宮の周囲にいる人間全員が見ているのは、本当の天宮の姿ではなく彼が創り上げたなにかなのではないか。だからこそ天宮は、誰に対しても同じ笑顔を向けているのではないか――それを知るのが、いや彼の中での僕の価値を知るのが怖くて、普段どおりの態度でごまかすしかなかった。
不安を抱えたまま天宮と一緒にいて、僕は今まで以上に彼のことを観察するようになった。やがて僕は、幸崎先生と話している時の天宮の表情が普段とは少し違うことに気づいた。
もともと幸崎先生と最初に親しくなったのは天宮だった。選挙に立候補してすぐ、当選したら天文部を創るから顧問になって欲しい、と伝えに行ったと本人から聞いた。僕がいないときも先生と天宮は二人で星を見ている。
天宮にとっての特別な誰かは幸崎先生なのかもしれない。
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