INTEGRAL INFINITY : extrastars

【anotherstars - Eclipse the Pleiades 06】

「天宮! 期末試験の結果見に行くの?」
「うん」
「じゃあ一緒に行こう」
 天宮は僕の誘いに快く応じた。
「今回の試験、手ごたえは?」
「きちんと勉強した分に関しては自信があるよ」
「天宮らしい言い方だね。どうせまたトップなんじゃない?」
 天宮は少し困ったような笑いを浮かべた。天宮らしいと言った僕の言葉の真意を、多分掴んでいるんだろう。
 天宮は一見普段通りに振る舞いながら、少しずつおかしくなってきているように僕には見えた。幸崎先生は間違いなく天宮の変化に気づいているだろうが、小野寺会長はどうなんだろう。あの人の事だ、何も気付いていないという事は多分無い。天宮を信用しているのか、それとも他の考えがあるのか、ただ口を出さないだけなのだ。

 順位表のところには先に天宮の兄が来ていたため天宮は注目を集めた。今回、兄が学年五位まで順位を伸ばしたためだ。
 これで校内の噂がますます信憑性を増すな、と僕が思っていたところ、購買前に現れた鎌仲先生が天宮の兄を連れて行った。
「酒谷。俺、職員室に行く」
 見ると天宮は険しい表情をしている。
「ひょっとして鎌仲先生?」
 僕が訊くと天宮は肯定した。
「北斗の成績が今回急上昇したから。先生はあいつに、カンニングをしたとか言いがかりをつける気かもしれない」
「ああ、あの教師って生徒に難癖つけるの大好きだしね」
 鎌仲について良い評価なんて、入学以来聞いたことがない。僕も個人的に嫌いだ。
「でもお前の兄、そう言うことやる人間じゃないんだろ? なら見過ごせないよ。僕も付き合う」
 そう言うと天宮は嬉しそうな表情になった。彼はそれほど兄の事が好きなのだ、と痛感させる笑顔だった。

 天宮の予想通り、鎌仲は職員室で天宮の兄にいわれのないカンニング疑惑をかけていた。天宮は咄嗟の機転で鎌仲を引き下がらせたが、職員室を出た兄はどういう訳か厳しい表情をしていた。
「何で、よりによってあんな嘘吐いたんだよ。最悪」
「なっ!」
 天宮の兄の余りの言いように僕は一瞬絶句する。
「天宮は先生に連れてかれたお前を心配して、わざわざ職員室まで追いかけてったんだぞ。それを――」
 天宮がどれだけの強さで兄を想っているのか知らない彼が、天宮を踏みにじるのが許せなかった。
「酒谷!!」
 だが天宮は、兄の襟首を掴もうとした僕を遮った。
「……ごめん。鎌仲先生を黙らせるためとは言え、今の北斗が一番言われたくない事を言った」
「俺、その場で再テスト受けてでも実力証明するつもりだったけど。なのにあんなに簡単に話がつくなんて、優等生の一言ってホント得だな。とっくの昔に置き去りにされた俺には、無理な話」
 天宮の兄は自虐的な笑みを口元に浮かべると、その場から立ち去ろうとした。
「北斗」
 それを天宮が呼び止める。兄は振り向かない。

「あの日からずっと訊きたかった――俺達、もう元に戻れないのか?」
「覆水盆に返らず、って、漢文の試験範囲だったろ」

 兄が言ったのはそれだけだった。
「おい、天宮、天宮?」
 僕は天宮の袖を引き何度も呼びかけた。だが天宮はあの日のように青ざめた顔のまま、兄が歩いていった方を見つめていた。

 翌日から天宮の様子は更に酷くなった。他人に対する態度と彼自身の内面が全く噛み合っていないのが、僕には解ったが一般の生徒たちには気付かれていないらしい。天宮の演技は殆ど反射反応に近いのかもしれない。
 翌日に天文部合宿を控えた終業式の朝、僕は校門で天宮と鉢合わせそのまま登校した。
「あれ……?」
 昇降口で天宮は何かに気を取られたらしかったが、僕にはそれが何か判らなかった。
「どうしたの、天宮」
「いや、何でもない」

 

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 本当に誰からも良い印象を持たれていない鎌仲。