【anotherstars - Eclipse the Pleiades 07】
翌朝、合宿の集合時間に天宮は現れなかった。
「これで全員揃ったね」
「あれぇ? 先生、天宮君は?」
「彼ならもう来ているよ。今は車の中で眠っているはずだから」
幸崎先生の言うとおり、天宮はレンタカーの後部座席で眠っていた。僕は天宮の隣に座ろうと思ったが、一瞬の差で山口副会長に先を越されてしまった。小野寺会長は助手席に座った。
幸崎先生が車を出してから暫くして、未だ眠ったままの天宮が声を発した。
「ん……う、ぅ……――」
「天宮、うなされてる……?」
「顔色も悪いわよぅ、酒谷君」
副会長が珍しく神妙な声で言う。
「天宮君は凄く疲れているみたいだからそっとしてあげよう」
運転席の先生がそう言った時、これは兄絡みなんだろう、と僕は直感的に理解した。あの地学準備室での事件の翌日も天宮は朝早く登校していた。あの日も昨日も、もしかして彼は一睡もしていないのかもしれない。
これ以上天宮が酷い状態になっていくのを、僕はただ見ているだけしか出来ないのだろうか。
車内で目覚めた天宮はどうも調子が良くなかったようだが、ペンションでまた一眠りしたためか、初日の観測は無事にこなしていた。
翌朝、天宮の後に顔を洗いに行った僕が洗面所から戻ろうとしたとき、幸崎先生の部屋に天宮が入るのが偶然見えた。
わざわざ盗み聞きをするのはフェアじゃない事は頭では解っていた。だが天宮を心配しながら何も出来ない自分に対する焦りが僕の脚をその場に留めさせた。
「有り難うございます」
「駄目だったら僕のアパートに来るかい?」
「えっ、良いんですか?」
「そうせずにはいられないんだろう、南斗君は。僕の部屋じゃペンションよりずっと狭いけれど。そっちに決まったら我慢してくれ」
「――なに、天宮は帰らないの?」
「酒谷!」
驚いた天宮が大声を上げる。どうやら正解だったらしい。なら僕が取る道は一つだ。
「だったら僕も残って良いですか? 先生」
よほど予想外の事だったらしく、天宮と先生が顔を見合わせた。
「どうせ年末年始は毎年家でゴロゴロしてるだけだし、だったらこっちにいたほうが楽しそうじゃないですか」
「兄と、君のご両親の許可が出たらね」
先生は困惑しながらも、一応の許しをくれた。天宮の事情を先生から話せない以上、それ以外の選択は出来ないだろう。
「じゃあ僕、親に電話してきます。ここ携帯の電波悪いですよね」
僕は二人にそれ以上何か言わせる前に、幸崎先生の兄であるオーナーのところに行ってペンションの電話を借りた。親はあっさりと合宿延長の許可をくれた。ついでに、オーナーからも。条件は、延長滞在期間中はペンションの仕事を手伝う事だった。僕はどうやら合宿メンバー中で一番オーナーから気に入られているらしい。どうも小さいのを馬鹿にされているような気分になるけど。
この事を幸崎先生と天宮に報告したら、二人揃って脱力していた。
天宮はいつ家に連絡を入れるか悩んでいたようで、夕食後にやっと電話を掛けに行った。やはり、兄の事で躊躇していたんだろう。天宮家は僕の家のように上手く行かなかったらしく、途中で幸崎先生が応援に行ったようだ。
「どうだった?」
「母さんの許可は貰えたよ」
「その割にはあんま嬉しそうじゃないね。何かあった?」
「北斗が風邪引いた、って聞いたから、ちょっと心配で」
天宮の表情は全然「ちょっと」どころではない。事情は知らないが、兄の風邪に天宮が責任を感じているのは明白だった。
怖いくらいの激しさで兄が好きなくせに、天宮はここに残ろうとしている。そして今度は風邪を引かせた事を後悔している。なら最初を間違えなければ良かったのに。
「天宮。僕が先に風呂行っていい?」
「いいよ」
僕は準備していた着替えを持って部屋を出た。
「――ホント天宮って、馬鹿だよ」
prev/next/番外編/polestarsシリーズ/目次