【make me yours ⇔ mine 04】
「はぁー……」
「どうしたんだよ天宮。具合悪いのか?」
「いや、何でもないよ」
俺は慌てて林藤に向けていつもの笑顔を作った。
落ち込んだ状態で失敗し、団体競技に影響を出すわけにはいかない。俺のクラスも白組所属だし、一応北斗の応援を受けてるんだから……。
昨日、菱井家に電話をかけても連絡がつかなかった北斗は意外にもきちんと帰ってきた。けれどあいつは、恐らくわざと親と同じ場所にいて、夜も俺と視線を合わせようとせず、一人でさっさと寝てしまった。
(どうでも良いけれど、俺の携帯のメモリに菱井の携帯と奴の自宅の番号が登録されている、と言うのは皮肉な話だ)
俺に釈明する機会を与えてもくれなかったのは――あの一瞬で俺に冷め、聞く必要も無いって思っているんだろうか。
「ほら、また溜息ついた」
「ご、ごめん」
「お前が調子悪いとみんなのテンション下がるんだよ。ほら騎馬戦行くぞ」
林藤に腕を引っ張られ、俺は次の競技のためにグラウンドに降りた。
「うちの学校、どうせならチア部創れば良いのにな」
林藤は、応援部がスタンバイしている舞台を見返りながら言った。
北斗は端の方に立っている。いつもは力を抜いている背中がぴん、と張っていて凛々しかった。眉間に力の入った表情は拒絶を連想させて、俺はまた林藤に溜息を怒られる羽目になった。
結果だけ言うと、かなり危うかったものの僅差で白組が勝利した。
体育祭の最後を飾るのは、何でそんなものをやるのか判らないけど三年生の盆踊りだ。出番の終わった学年の中には既に着替えに戻った生徒も居る。俺もその中に混ざろうとした時、後ろから肩を掴まれた。
「――今日お前、ぼろぼろだったじゃん」
応援団の応援をする代わりに他の競技を免除されている北斗は、未だ学ラン姿のままだ。
「俺のとこからもばっちり見えたぜ。お前が騎馬から落ちる瞬間」
うわ情けない……じゃなくて、事態が飲み込めずにいる俺の手を北斗が引いた。
「え、何、何?」
「こっち」
北斗に連れてこられたのは体育倉庫の一つだ。ここは主にボール類の置き場で、球技大会の日ならともかく、陸上競技メインの今日は使われようがない場所だった。
「南斗、入れ」
「鍵、どうしたの?」
「体育祭用の団旗って普段ここにあんだよ。先輩達盆踊り行くっつぅから、俺が鍵預かった。たぶんあと一時間ぐらいは誰も来ねぇよ」
こんなところで二人きりになって、北斗は一体どういうつもりなんだろう。
浮かんでくる嫌な考えを振り払おうとしてる間に――突然、体操着の襟首を掴まれた。
「ちょっ、北斗!?」
「あのな南斗、お互い割り切ってるとかそんなの関係ねぇから、だから欲求不満だとかそういうの、他の奴で何とかしようとすんな」
……はい?
事態を飲み込めない俺を置き去りに、北斗は一旦手を離すと俺の手首を握った。
そのまま、掌を学ランの合わせ目に押しつける。
「お、お前がどうしてもこういう事してぇんだったら俺、考え直すし……っ」
「もしかして昨日の山口先輩の事、妬いてくれてる、って考えて良いの?」
あまりにも北斗の行動が唐突すぎだったから、つい改めて訊いてしまった。北斗は、当たり前だろ、って拗ねた声で言った。
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