【三年次クラス発表編 その2】
2007.04.02〜2007.05.03 Web拍手お礼SS
(面白くねぇ……)
北斗は新しい座席に着いてからずっと、不機嫌だった。
アマミヤというアから始まる名字の彼は、必然的に出席番号一番になる機会が多かった。勿論、アイザワやアカイなど、二文字目がマ行より前に来る名字の生徒がいなければ、の話だが。
三年一組の生徒には、アマミヤより出席番号が前に来る者はいない。
それでも、今年度の北斗は出席番号二番なのだ。
(ハ行よりナ行のが前かよ、くそっ!)
――初めて同じクラスになった双子の弟は「ナ」ント。名前で「ホ」クトの前に来るため、出席番号を追い抜かれてしまったのである。
(すっ、っっっごい幸せ……)
南斗は頬が緩まないよう、表情筋に意識を集中させながらも幸せに浸っていた。
小学校に進学した際北斗とクラスが別れてしまった事にショックを受け、担任の先生を困らせまくった経験のある彼にとって、高校三年という最後の最後で北斗と同じクラスになれたのは無上の幸福なのだ。三年は成績と進路でクラスを決める、と言う制度を最初に提案した人に感謝の祈りを捧げたいぐらいだ。
(ああ、背中に北斗の視線を感じる)
まさかそれが殺気じみてすらいるという事を、南斗は知るよしもなかった。
三年一組の生徒達は、北斗がルーズリーフを一枚取り出して何か書いているのを見た。
北斗はシールか何かをその紙にくっつけ、目の前の背中に慎重にあてた。
「ぶっ!」
北斗の斜め後ろに座っている生徒が思わず吹き出しかける。
南斗の背中に、「バカ」と大きく書かれた紙が貼り付けられている。
北斗は悪戯をする事で溜飲が下がったのか、満足そうな顔を机に伏せて居眠りの体制を取った。
2007.04.02〜2007.05.03 Web拍手お礼SS
「さっかたっにサマー、かっえりっましょー、っと」
「……和地。何でここに来るんだよ」
「そりゃクラス別れちゃったんだから、オレが迎えに来るっきゃないっしょ」
ここ、酒谷のいる三年六組は国立文系クラスだ。和地の九組は体育大志望者が多いクラスである。
酒谷は危うく「別に頼んでないんだけど」と言うところだったが、この半年で和地には何を言っても無駄、と言う事を学習済みなので、やめておいた。
周囲もすっかり二人を「デコボココンビ」と見なしていて、酒谷の背後に和地が立っていないと何処か寂しく感じるぐらいである。この一年もきっと、酒谷と和地は相変わらずの関係だろう。
二人が廊下に出て昇降口へ向かっていると、理系クラスの前で一騒動起きていた。
「あっ、副会長! 会長が珍しく怒り爆発させてるんだけど!」
「何?」
ぴくり、と眉を動かした酒谷が見たものは。
「ちょっと北斗! 何で変なの人の背中に貼るわけ!?」
「うるせぇ、俺の悔しさがお前に解るか」
知らない間に悪戯されていた事に憤る南斗が、北斗と追い掛けっこを繰り広げている様子だった。狭い廊下なので、バターの虎のように同じところをぐるぐる廻っている。北斗は紙一重で南斗の腕をかわし、決して捕まらない。元々こういう事に関しては北斗の方が上手なのだ。
「あんの馬鹿ども!! 初日から何やってるんだよ――和地!」
更に眉をつり上げた酒谷が指をパチン、と鳴らした。
それを合図に、和地が双子の間に入ってそれぞれの腕を捕まえた。
「「わっちゃん!!」」
二人が同時に抗議の声を上げたが、和地は涼しい顔で顎をしゃくった。その先には、腕を組み胸を反らす酒谷の姿。
「……ミナミヤ、ちょっと生徒会室に来い」
酒谷の激しい怒りを感じ取り、南斗は消え入りそうな声で「はい……」と言った。
「和地、キタミヤの腕は放せ。いま僕が説教するより効果的だろうから」
「酒谷サマの仰せのままに」
そのまま和地は南斗の腕を引いて酒谷の後についていった。
残された北斗とギャラリー達は、呆然と彼らの後ろ姿を見送る。
「あーあ、やっちまったなー、北斗」
「菱井」
いつの間にか北斗の背後には菱井が立っていた。
「お前も多少は承知の上でやったんだろーけど、家に帰ってから覚悟しとけよ。酒谷の奴、説教ついでに煽る気だぜー、珍しく」
「うっ」
菱井の言葉に北斗は声を詰まらせる。
「自分にバックファイアが来るってわかってて、それでも天宮南斗に『お仕置き』させる方を選ぶとはなー。つくづくすげー奴だよ、酒谷は」
弱り切った北斗は「暗くなるまでお前んち避難させて……」と菱井に懇願したのだった。
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