【大学生編(またの名を同棲編) その2】
2009.06.13〜2010.06.13 web拍手お礼SS
――Happy birthday to you, happy birthday to you...
「ハッピーバースデーディアみーなさーん!」
ハッピーバースデートゥーユー、と店員にあわせて唱ったのは菱井だけだった。小野寺先輩はこういう事にノるタイプではないし、俺と北斗は唱う側ではなく唱われる側だ。
二人でケーキの上の蝋燭の火を吹き消す。今日は俺達の誕生日だ。
「おめでとー北斗! ついでに天宮南斗」
「……せめておまけ扱いしない気遣いがあってもいいんじゃないか?」
そもそも今日は北斗と二人きりで過ごしたかったのに、友人代表として北斗の誕生日を祝わせろ、と菱井が無理矢理「誕生会」をねじ込んできたのだ。奴が予約したこの店は、誕生日を迎えた客に、店員と客全員とで「ハッピーバースデー」を唱うのが名物になっている。
「まぁまぁ。今日はこいつが奢ってくれるんだから大目に見てやれよ」
菱井が不安そうな目で小野寺先輩の方を見たが、先輩は涼しい顔でビールを呷るだけだ。その様子を見て俺は大いに溜飲を下げた。
「南斗、ケーキ食おうぜ。でもビールとは正直合わないよな」
北斗はさっきからずっと楽しそうだ。酔いがちょうど良く回っているんだろう。
酔ってとろとろになった北斗と――と妄想した事は何度もあるが、それが夢でしかないのは判りきっている。一卵性双生児の片割れである俺が酒に強いからだ。入学直後とか、何度かコンパで飲まされた経験からの判断だが。
「おい、食わねぇのか?」
「食べるよ」
「北斗。良かったら一口」
――それを俺の目の前でやったら我慢は限界を超えると思う。
「良介」
「……ちぇー」
俺の眼光に気付いてくれた小野寺先輩のおかげで、菱井は誕生日ケーキを諦めてくれた。
「お前んときはケーキ買ってやるからさ」
「うう、やさしーなー北斗」
「先輩。ひょっとして菱井も酔ってますか」
「ああ。こいつはもっと壊れるがな」
どうやら先輩は今夜を楽しみにしているようで、俺は思わず苦笑を漏らした。
2009.12.25 23:34
「おい! ケーキ買えたぜ!」
俺は待ち合わせ場所にいた南斗に、持っていたケーキの箱を掲げながら声を掛けた。
「意外と時間かかったね? 俺、絶対北斗を待たせてるって思って急いだのに」
そう言う南斗は両手にビニール袋を提げている。中にはチキンか何かクリスマスっぽい食い物が入っているはずだった。
「いや、すげぇ並んでんだもんケーキ売場んとこ。これラス1だったんだぜ」
まぁ普段ケーキ買わない連中も今日だけは特別なんだろ、って事は解る。何せクリスマスだしな。ケーキ無いとなんか寂しいってのはガキの頃から染み着いた習性なんだと思う。
「南斗。シャンパン買った?」
「流石に本物は買えないよ。出来るだけ安いスパークリングワイン探したけど、別にそれでいいよね」
俺達酒の違いわからないしね、と南斗が笑った。
「それより早く帰って食べよう」
「そうだな」
俺達は横並びで夜の街を、家のある方に向かって歩いた。南斗は始終機嫌良さそうで、何考えてやがんだか丸わかりなぶん、こっちはうんざり半分「仕方ねぇなぁ」って菩薩のような気分が半分って感じだった。
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