【ふしぎの国のアリス少年 02】
するとどうでしょう、アリスの身体はみるみるうちに小さくなっていきました。何で服も一緒に、とか(以下略)
とにかくリ○ちゃんサイズまで縮んだアリスは先程開けたドアをくぐって広間から出て行きました。テーブルの下に出現した巨大化用ケーキは出番無しです。
外は色とりどりの花が咲き乱れる、素敵な庭園でした。花壇の間を縫う小径を歩いていると、間違いようのない、お目当ての声が聞こえてきてアリスはその方向にぐるん、と顔を向けました。これが漫画なら凄い密度のスピード線が引かれてるとこです。
「あぁもう、何で見つかんねぇんだよ! このままじゃマジ遅刻しちまうじゃねぇか」
白ウサギは何かを探しているらしく、花壇の周囲を移動してはぴょこぴょこと身体を上下させています。
(や。か、可愛い……!)
白ウサギがしゃがむ度に耳と尻尾がひくひく動くので、アリスはよっぽど後ろから抱きついて押し倒したい気持ちになったのですが、無理矢理がどんなに酷いかという事をどっかの別世界から受信したので、すんでの所で思いとどまりました。
「白ウサギさん。何か捜し物してるの?」
とりあえず、普通に話しかけてみます。
「ん? ――!?」
白ウサギはアリスの方を振り返った途端、物凄い勢いで十歩ほど後ずさりしました。そりゃ、自分と寸分違わず同じ顔をした女装少年からギラギラした目つきで見つめられて、驚かないわけがありません。
「ちょっと、そんなに驚かなくたっていいんじゃないかな。俺、君が困ってるなら手助けしてあげたいって思ってるんだよ」
何も取って食おうとしてるわけじゃないんだから、と言う定番のセリフを言わなかったのは、もちろんアリスが白ウサギを最終的に「取って食」う気まんまんだからです。人間、嘘はいけません。
白ウサギは戸惑いましたが、いま物凄く困っているのは事実です。助けがあるに越したことはないのでアリスに事情を話す事にしました。
「俺、公爵夫人に呼び出されてるんだけどさぁ、ただでさえ遅れそうなのに手袋と扇落っことしちまったみてぇで……遅刻したりちゃんとしたカッコしなかったらやべぇんだ」
もしそんな事になったら、公爵夫人に何をさせられるかわかったもんじゃありません。以前彼が遅刻した時、罰として公爵夫人は白ウサギに無理矢理特注の白のバニーコートを着せ、あまつさえ人前に引きずり出したのです。とんでもない羞恥プレイです。
バニーガールのウサギは実はオスのイメージだそうで、プレイボーイのウサギが発情期のオスだからだとか――発情期!?
白ウサギはその時の恐ろしい記憶を思い出して思わず身震いしましたが、アリスには何も言いませんでした。とても賢明な判断です。もし上記の知識をアリスが持っていた場合、非常に厄介な事態に陥っていた可能性が大だからです。何せ相手は朱鷺の擬似交尾の話題も利用しようとする奴ですので。
「家に予備があればそれを持ってきた方が早いんじゃないかな。よければ俺が取ってこようか? 白ウサギさんは公爵夫人のとこに先に行ってもらって、後から追いかけるから」
「その手は思いつかんかった。お前変な格好だけどアタマ良いな」
そう言って白ウサギはピンクの目をきらきらと輝かせたので、アリスは危うく手で顔を押さえてしゃがみ込むところでした。
「ほら、俺んちの地図。マジでよろしく頼むな?」
「まかせといて」
頼んだからなー、と手を振って走り去る白ウサギに笑顔で手を振りながら、アリスは内心こう思っておりました。
(オーケー、住所ゲット)
――流石ですねストーカー予備軍。
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