【ふしぎの国のアリス少年 05】
果たして、庭園の奥まったところに裏門があり、森へと続く道が延びていました。
アリスはその地面に微かに足跡が残っているのを発見しました。自分の足を乗せてみるとぴったりです。白ウサギのものに間違いありません。
はやる気持ちを抑えきれずに走り出すと、やがて森の中の小さな一軒家が見えてきました。
「白ウサギさん、ここにいるのかな?」
どうやらこの家の住人達はガーデンパーティーをしているらしく、垣根の向こうから幾人かの楽しげな声が聞こえてきます。
門は開いているようなので、アリスは「この辺の住人は揃いも揃って防犯意識が薄いな」と思いながらも敷地に足を踏み入れました。
小さな庭のかなりの面積を占める、無駄に長いテーブルの端っこに三人ほど座ってお茶を飲んでいるようです。そのうち一人(一匹?)の頭には長い耳が見えたので、アリスは興奮気味に彼らの方に近寄りました。
「おや? 三月君お客様がお見えのようだよ」
最初に声を発したのは、何か色とりどりの紙が挟まった帽子を被った男でした。髪の毛が当社比三倍ほどゴージャスでぐるんぐるん巻いています。はっきり言って変です。
「あれっハクト? お前今日お勤めのはずじゃねーの?」
アリスはウサギを見てがっかりしました。彼の毛並みは茶色で、身長も白ウサギより5cmは高そうです。頭に巻いた藁はこの際突っ込まないでおくことにします。
「わっ! 耳がねーぞ!? 髪の毛も黒くされちまって……ロリ女装はともかく耳はしゃれになんねーじゃん!!」
どうやらこのウサギは白ウサギの知り合いのようで、アリスを白ウサギと思い込んでわあわあ騒ぎたてました。
「落ち着きたまえ三月君。お客人は確かに白君そっくりだが、彼にはボクと同じ人間の耳がついている。流石の公爵夫人も形成外科の技術はお持ちでないだろう」
帽子の男の指摘でウサギはやっと騒ぐのをやめました。そしてアリスをしげしげと観察すると、「すげー、ホントにハクトそっくりなのに人間だ」と何度も言います。アリスはどういうわけだかむかむかしてきました。
「ねぇ、ハクトって白ウサギさんの事だよね?」
「そーだよ。遠い東の国で白いウサギをそう呼ぶ事があるんだってさ。なんかあいつにぴったりって思わねー?」
このウサギが何となく気に入らなくても、彼の言うことは全く正しい、とアリスは思いました。偶然の一致とはいえ、ローマ字にしてアルファベット1文字しか違わないんですからね。
「ところで、我々の自己紹介がまだだったね」
「おい帽子屋、家の主を差し置くなよ」
「三月君が基本を忘れているのがいけないのだよ」
「そりゃーそうだけど……俺はここに住んでる三月ウサギ。で、こっちがダチのイカレ帽子屋だよ」
「あの、さっきからテーブルに伏せたまま全然動いてないのは?」
アリスが残った一人を指差すと、三月ウサギは苦笑しながら顔の前で手を振りました。
「あー、ヤマネの事は気にしなくて良いよ。昨日徹ゲーしてて寝不足なだけだから」
……動物のくせに徹夜でゲームとは。だから三月ウサギが大声でわめいても目を覚まさなかったのでしょう。
「俺はアリス。君の言うハクトを捜してるんだけど」
「さぁ、今日はこの家にゃ来てねーぜ? なぁ、帽子屋?」
「三月君の言うとおりだよ。公爵夫人の屋敷にいるんじゃあないのかい?」
「そっちにいなかったから訊いてるんだよ」
「ふむ。じゃあボクらにはお手上げだ。それよりアリス君。不毛な事はやめて我々とお茶をしないかい?」
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