【New Love 03】
2010.11.17〜2010.12.28 web拍手お礼SS
朝、ホームルームに間に合う時間に登校してきた菱井は、真っ先に北斗の席に向かった。
「……おはよー、北斗」
「はよ、菱井」
二人は互いの顔を見合わせると、照れ笑いを浮かべて視線を明後日の方向に逸らした。
「お前、昨日は大丈夫だったのかよ」
「あー、『遊び疲れて公園の土管みたいなやつで居眠りして風邪引いた』っつったら親に滅茶苦茶怒られてさー」
何それ馬鹿じゃん、と集まってきた久保田らが笑う。成る程そう言う設定で押し通す気か、と視線を戻した北斗の目が語っていた。
「おかげで今月小遣いカットだぜー?」
「そりゃ、『昨日一緒に遊んだダチ』に奢ってもらえよ」
そう言うと北斗は何故か緑川をちらと見たが、緑川は軽く頷いただけで澄ました表情を崩さなかった。
「あー、そーするわ……サンキュー、北斗」
菱井は首の後ろを掻きながら自分の席に着いた。隣の緑川も後に続く。
「熱の方はもう良いのかい、菱井君?」
「そっちは昨日寝たら治った。っと、昨日は緑川もありがとうな」
「礼には及ばないよ。それよりキミ、今日のホームルームが開始したらもう一度叱責される覚悟をしたまえ」
担任がいたく心配していたからね、と緑川が普段以上に言葉に抑揚をつけるのを聞いて、菱井は早速憂鬱な気分になった。
2010.11.17〜2010.12.28 web拍手お礼SS
放課後、一組の教室に残ったいつものメンバーがこれから何をして遊ぶかの相談をしていた。
「カラオケ行く? ゲーセン? 久々にみんなでトーナメント戦やろうぜ」
「……あのなぁ久保っち」
菱井は大袈裟に溜息を、吐いた。
「俺、カネねーんだからちったー手加減してくれよ」
そう言って時々携帯の画面を開いては閉じたりしている。
「それは菱井が勝負に熱くなりすぎるからだろ。負けたらムキになってすぐ再戦しようとするから」
下田の指摘に菱井はう、と声を詰まらせる。
「なぁ、何か菱井さっきから携帯ばっか気にしてない?」
その時、教室の前方から女子達の悲鳴めいた声が、上がった。
久保田達も驚愕に顔を引き攣らせる。一方で黒板に背を向けていた菱井は、首をホールドされるまで事態に気が付かなかった。
「ふぐっ!?」
「来い」
耳元で端的に命令され、何が起きたかを悟った菱井は拘束から逃れようと暴れた。
「やめっ、何すんだ放せーーーー!!」
しかし小野寺の力に敵うはずもなく、そのままずるずると引き摺られ教室から連れ出されてしまう。
後に残されたのは、女子達の騒乱と呆然とする菱井の友人達。
「……ありゃあ今日無理だな菱井。久保田の言う通りゲーセン行って対戦やろうぜ」
「うわ、天宮が真っ先に菱井見捨てるなんて」
まぁ会長に逆らうのは困難だろうね、と緑川が締め、一同はゲームセンターに向かうべく帰り支度を始めた。
2006.09.11 12:46
「……会長遅いね」
「うん、何せ山口先輩の方が先に生徒会室にいる異常事態だしね」
「前から思ってたんだけどぉ、天宮君ってあたしの扱い酷くないー?」
山口先輩の事は無視する。
俺と酒谷が落ち着かないのは昨日の事件のせいだ。
北斗は何も言わない。だから昨日、二人の間に何があったのか俺達には判らない。
「天宮、廊下のほうから何か声聴こえない?」
「本当だ、誰か騒いでる」
「やめろ離せっ、必要ねーってば、優っ!!」
昨日北斗が入ってきた時に劣らない派手な音を立てて扉が開き、小野寺先輩が入ってきた――一人の男子生徒の首をホールドして引きずりながら。
「あれ……お前の兄の友達じゃない?」
酒谷の問いに俺は頷く。
何で菱井が?
「天宮。酒谷」
「はいっ!?」
「お前達、クラスメイトから俺の本命を探ってくるよう再三言われているだろう」
「ええ――って何で先輩そんな事知ってるんですか!」
俺達の勧誘の時と言い、この人は本当に油断ならないな。
小野寺先輩は俺に構わず、抱えている菱井を指差した。
「――コレだ」
「わーっ、わーっ、わーっ!!」
「……はい?」
「だから、こいつが俺の本命だ」
「えぇ!? こんなのがですか!?」
「こんなのとは失礼だぞ天宮南斗……じゃねー、何で二日で知ってる人間倍に増やすんだよ優!」
おお、あの小野寺先輩を呼び捨てだ。
信じられないけど信じるしかない。このことが理由なら、道理で北斗が口を割らないわけだ。
隣の酒谷を見ると、すっかり硬直している。
「せっかくちゃんと両思いになったんだから、一緒にいても不自然になんないように幼馴染みってことは公表するんでしょ?」
「ああ」
「だからね、優ちゃんは身内のあなた達には本当の事告白してるのよ」
山口先輩は菱井のことをとっくに知っていたようだ。流石はツーカーの仲。
「公表!? 聞いてねー!!」
「言ってないからな――ということだ、わかったな天宮」
そうか、読めたぞ。
先輩の本当の目的は、菱井に手を出したら承知しないと俺を牽制することなんだ。
しかたない、後輩としては先輩を立てるしかないじゃないか。
――でも、やっぱりあいつは気に入らないけど。
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