【New Love 04】
2010.11.18 20:46
「うー……」
朝、校門前まで来た俺はそこで思わず立ち止まった。
今まで学校に来なきゃと思った事はあっても、ここで尻込みするなんてのは無い。
「おはよ菱井。ってお前、何こんなとこで仁王立ちしてるん?」
「北斗」
突然背後から肩叩かれたと思ったら、そこには俺の親友がいた。
「はよー北斗。いやさー……」
「おはよう、菱井君。何してるのかな?」
――あーうん、お出ましになると思ってたよ。何あの冷たい声色。
「……おはよー天宮南斗。いや、ちょっと気合い入れなきゃなーと思ってさー」
すると、天宮南斗の笑顔から見る見るうちに冷たさが消えた。
「ふぅん、そうなんだ! でもいつまでもここに立ってたら遅刻するよ?」
ちくしょー、これは明らかに楽しんでやがる。俺が大変な目に遭う事を期待してやがんな!?
ここで考える。下手に動揺したら俺の負けだ。
「いやーお気遣い無く。昔はそれこそ日常茶飯事だったしなー。一応覚悟は完了済みよ? ほら行こうぜ北斗!」
せめてもの仕返しに、俺は北斗の手を引っ張って昇降口まで駆け出した。
2010.11.25 07:47
「ちょっと菱井!!」
「昨日小野寺先輩と!」
「何があったの!?」
――おー、みんなてんでバラバラに喋ってんのに一つに聞こえるぜ。
なんて、俺は目の前に迫る女子達を前に、つい人事のように考えた。
俺の後ろにいた北斗は、こっそり別のドアから教室に入ろーと移動している。
女子達の後ろでは野郎どもが「菱井の奴第二モテ期か?」「生徒会の呼び出しって事は何かやらかしたのか?」なんて噂している。
「おい、とにかく教室入れてくれよ……こんなんで遅刻はやだぞ」
そう言って俺は女子達を掻き分け中に入った。席に移動するまでの間、女子達は俺の後をぞろぞろついて来た。まるで可奈から借りた本に出てくる親衛隊付きの攻めみてーだな、と思った。
「菱井ー、ハーレムだなこんにゃろう」
久保っちの言葉にいつもの連中が笑う。やっぱ高校は色んなとこから生徒が集まるし、学年違いにゃ小学校ほどの縦の繋がりねーからだろう、男側に関しては今までと変わらなそうでホッとした。まー部活や委員会が一緒の信奉者が居たら話は別だったけど、そっちはあの天宮南斗と酒谷しかいない。
ああ天宮南斗、あんたが北斗以外目に入んねー奴な事にこれほど感謝したのは初めてだ!
2010.11.30 21:03
俺が机の上に鞄を置いても女子達の勢いは衰えなかった。むしろよけー騒がしくなって、もう騒音にしか聞こえねーぐらいだ。
唯一わかんのは、こいつら全員程度の差はあっても優が好きだと言う事だ。
そう考えると、つい一昨日やっとあいつの気持ちが聞けたばっかだっつーのにまた腹の底にムカつきが溜まってくる。
しかもこないだ階段落ちた時みてーに間接何とやらの為に女子達が次々と俺の首を狙ってきやがって、ついに俺の中の何かが、切れた。
「あーもう! てめーらうるせーよ優は俺の幼馴染だ連れてかれてわりーかよ!! あと幾ら詰まれよーが脅されよーが頭下げられよーがあいつへの仲介なんてぜってーしねーからな! 絶対だからな!!」
キレた俺にクラスメイト連中が絶句する中、北斗一人が「ぶはっ!」と吹き出した――いや、隣の席の緑川もどうやら机に突っ伏している。
「くっ……くくく……ふふっふふふふっふっふ!」
「はいー出席取るよーみんな席着いて!」
そこで担任が教室に入ってきて、みんな自分の座席に戻って行った。
「菱井」
北斗が通りすがりに立ち尽くす俺の肩を叩く。
「――妬きすぎ」
耳元で囁かれ、俺はさっき自分が何を叫んだか自覚した。
血の気が引くと思った顔は、凄まじく熱くなった。
2010.12.24 23:42
次の休み時間になった途端、俺は横から緑川に袖を引っ張られた。
「――さて菱井君、キミは朝の発言に関する説明責任を果たさねばならないよ」
「うっ……」
「そうだぞ菱井!」
そしてすぐに久保っち達も集まってきて俺は逃げらんねー状況に置かれてしまった。でも、女子達じゃねーぶんマシかもしれない。すぐに緑川がちょっかい掛けて来たせいでタイミング出遅れたんだ。
「で? 会長と幼馴染だって?」
俺の前に回った下田が言う。
「……ああ、そーだよ」
「何で今までそんな重要な事黙ってたんだよー、俺達友達だろ?」
「何か今のすげー都合良い発言だな久保っち……っつか男のプライドに掛けて知られたくなかったんだよ」
何だそりゃ、と橘が言った。他の連中も首を捻ってる。
「俺は菱井の気持ち解るぜ。俺だって南斗と同じ顔じゃなきゃあいつと双子なの黙っときたかったしな」
「北斗――!」
そういう事だろ、と言って北斗はニヤニヤ笑った。ちょい気になるけど、多分これは援護してくれてんだろーな……。
「そ、そーそー! そーなんだよ!」
「ソを連呼してどうするんだい菱井君。まぁ確かに、今朝の女子諸君のアレが三年間続くと考えるとボクでも遠慮申し上げたいね」
緑川が肩を竦めると、久保っち達も何とか納得してくれた。
「あー久保っち、ひとつ良い事教えてやるよ。山口副会長は優の従姉妹だぜ」
「従姉妹!? まさか菱井お前!?」
「あーうん、郁姉と遊んだ事あるぜーガキの頃」
「くそぉー羨ましいー!!」
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