「あ、あのっ……!? あ、アマミヤ君……?」
あーあ。やっぱ動揺してるよ、この子。
そりゃ、一大決心して告白しようと思ったのに、待ち合わせ場所に現れたのが別人じゃあなぁ。確かに顔は同じだけど、あいつは髪をアッシュブラウンに染めてなんかいねぇし、左耳にストーンが入ったイヤーカフスを着けてもいない。
「クラス間違えてるよ。俺は一組、南斗は八組。あいつには黙っとくから、もう一度手紙出し直せば?」
ほら返すよ、と俺の下駄箱に入っていた可愛い封筒を渡してやろうとしたけど、女の子はとっくに駆けだした後だった。
「どーだった?」
座席に戻ると、菱井がいかにも興味津々って顔で俺を待ちかまえていた。
「やっぱり南斗宛だった。名前入ってないからちょっとは期待したんだけどな」
「有名人が兄弟、しかも双子だと大変だなー」
「ま、中学ん時から慣れてっから」
「ふーん? 北斗自身はサッパリもててねーわけ?」
「同じ顔だったらそりゃ、何でも出来る南斗の方に目がいくだろ」
俺の双子の片割れ――天宮南斗は品行方正成績優秀スポーツ万能、しかも一年なのに生徒会役員をやっている、今時こんな少女漫画キャラいんのかよ、って突っ込みたくなるような奴だ。俺はと言うと、まぁスポーツはそれなりに出来るけど、他の点ではごくごく平凡で平均的なイチ高校生でしかない。
小学生の頃は二人とも大して変わんなかったんだけど、中学生になってから南斗一人だけがめきめきと頭角を現し、入学後半年ぐらいで周囲の注目はあいつばかりに向くようになった。俺は早々に南斗と張り合う事の無謀さを悟り、「天宮南斗と双子の奴」って認識以外は特に目立つこともなく三年間を過ごした。俺らが同じ高校に入った理由は、単に通学は楽なほうがいい、っつぅ思惑が一致しただけだ。
「そんなもんかね。俺は平凡なお前と平凡にトモダチやってる方が気楽だよ」
俺と友達になろうとする連中は基本的に南斗が最終目的だったので、いつの間にか俺は学校の奴と深く付き合う努力をすんのが面倒になっていた。菱井は、そんな俺自身と積極的に関わってくれる数少ねぇ人間の一人だ。
「サンキュー、お前は良い親友だよ」
「礼よりも六限の課題、五限の間に貸してくれー」
「……ほらよ。正解かどうかは期待すんなよ」
「だいじょーぶ、自力でやったって間違ってるから」
「自分で言う事かよ」
どつき合ってるあいだに古典の先公が来た。平凡な俺らは午後も大人しく授業を受けるのだ。
放課後、帰ろうとする俺の携帯にメールが入った。南斗からだった。
『今日は遅くなる 母さんによろしく』
「――自分で電話すりゃいいのに」
生徒会の仕事とやらは随分忙しいらしく、南斗の帰りは夜中になる事がよくある。警備とか大丈夫なのか、とも思うけど、生徒会メンバーともなれば学校の覚えもめでてぇんだろうから、きっとどうにでもなるんだろう。
母さんは「南斗は本当に頑張り屋さんよね。北斗もちょっとは見習ったら?」と馬鹿にしたように言う。両親も多分、さっぱり芽が出ねぇ俺より何でも出来る南斗に対する期待の方がデカイんだろう。別に、それが原因でぐれるつもりは毛頭ねぇんだけどな。髪を初めて染めた時は険しい顔されたけど、うち校則緩いし、南斗と間違えられんのも飽きたから、と正直に理由を言ったらそれ以上の文句は言われなかった。
それでも、今日の昼休みみてぇな事はあんだけど。名字は流石に変えらんねぇから仕方ない。
んな事を考えてるとタイムリーに、あの子が廊下を歩いてんのが見えた。うちの教室なんて見たくもねぇ、って言いたげに下を向いている。
「北斗、どうした?」
「んにゃ、何でもない。行こうか菱井」
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