INTEGRAL INFINITY : polestars

 俺は菱井とゲーセンで新作のガンシューティングをやって、ファーストフード店で適当にだべってから家に帰った。南斗が帰ってきたのは日付が変わる間近だったらしく、俺が風呂から上がった頃に、制服のままで温めなおしたシチューを食っていた。
「ただいま、北斗」
「……おう」
 俺は返事だけして、冷蔵庫から野菜ジュースを出す。コップに注いでから南斗の向かいに座って、飲み始めた。
「思ったけど、北斗っていつも喋らないよねこういう時」
「別に、話すようなこと無ぇし」
 昼に間違って呼び出された事は話題になんだろうけど、一応、ばらさねぇと約束してっから言わねぇ。
「でも、男二人が向かい合わせで黙って飲食してるのって不気味じゃない?」
「誰が見てる訳でもねぇんだから、いいだろ」
「見てるじゃないか、お互い」
 周囲に人が絶えない南斗にとって、誰かと一緒にいてまともな会話が成立しねぇって事は考えらんないらしい。
「じゃあお前から話題振ればいいじゃん」
 あ、と南斗の表情が一瞬間抜けになる。いつも自分が話しかけられる立場だから、これっぽっちも思いつかなかったんだろうか。いやそれとも、前に俺が「生徒会とかの話題にゃ興味ねぇし、お前の交友関係なんて俺にとっちゃ不特定多数の他人で、誰が誰だかわかんねぇよ」って言った事があるからか? ――多分、正解は後者だな。

「そう言えば、放課後に呼び出された」
「誰から?」
「四組の奈良さん」
 ナラさん……俺が黙ってあげようと思った、あの子だ。あんなにパニックになってたのに速攻で本命に告りに行ったとは、正直見直した。
「付き合うつもり?」
「いや、断った」
「だったら俺に言う必要ねぇじゃん」
「彼女、間違ってお前に手紙出した、って言ってたから」
 どうやら俺が配慮しなくても、奈良さんは自分から失敗をバラしちまったらしい。
「気持ちが落ち着いたら、お詫びが言いたい、って」
「ああ、そういう事」
 彼女、素直で良い子なのかもな。最初、結構可愛いって思ったし。違う出会い方なら俺、アタックしてたかもしんねぇ。
 落ち着いたら、っつぅのは、彼女は南斗と同じ俺の顔を見るのが辛いって事だろう。「南斗」を好きになった子が数ランク下の俺を見る事なんて無い。あったとしても、南斗の身代わりとしてだ。

 自分の部屋に戻った俺は、ベッドに寝転がって菱井にメールを打った。ナラさん事件の顛末を報告するためだ。送信ボタンを押した後、俺は余計な事まで思い出してしまった。
 中一の終わり頃、学年でも一、二を争う可愛い女の子に告白された。勿論その場でオーケーしたんだけど、一ヶ月も経たないうちに別れを切り出された。
『同じ顔だから北斗君でもいい、って思ったけど、やっぱり南斗君とは全然違うもん』
――後で、彼女は俺の前に南斗に告白して振られたって話を聞いた。俺が有頂天になって南斗に彼女の話をしたとき、あいつは何も言わなかったと思うとむかついた。でも言われていたら言われていたで腹が立ったろうから仕方ねぇと思う。
 それ以来、俺は恋愛に期待する事もやめた。南斗が告白してくる女の子達を次々と振り続け、そのうちの何割かがあからさまに俺に接触してくるからだ。
 大学はいくら何でも別れるだろうから、そこで対人関係は新しく作り直せば良い。今は親友が一人出来ただけでも上出来、って思わなくちゃな。

 

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 南斗登場。最初の一件以来、南斗は告白されるたびに北斗に律儀に報告します。私だったら絶対やらない(笑)